ロボット(フィジカルAI)業界の今後はどうなる?
ロボット・フィジカルAIについて、私は今後5~10年を「強気」と見ています。
生成AIの第一段階は、文章、画像、動画などデジタル空間の情報を扱うAIでした。
次に始まろうとしているのが「フィジカルAI」です。
カメラやセンサーで現実世界を認識し、AIが状況を判断して、ロボットや機械を実際に動かします。
対象は人型ロボットだけではありません。
産業用ロボット、物流ロボット、協働ロボット、自動搬送車、自動建機、自動運転、ドローンなども広い意味ではフィジカルAI市場に含まれます。
日本政府も2026年5月に「AIロボティクス戦略」を改訂し、ロボットの社会実装を政策として進めています。さらに6月には経済産業省とNEDOが「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」を開始しました。
私はフィジカルAIを、生成AIに続く次の大型AIテーマとして見ています。
なぜ今フィジカルAIなのか?
最大の理由は、AIの能力が現実世界で使える水準へ近づいてきたからです。
従来の産業用ロボットは、人間があらかじめ動作をプログラムする必要がありました。
例えば、
部品Aを取る
右へ30センチ移動する
部品Bの位置へ置く
という動作を細かく教えます。
しかしフィジカルAIでは、カメラなどで周囲を認識し、
「この部品をここへ運ぶ」
という目的を与えると、AI自身が状況に合わせて動きを判断する方向へ進みます。
部品の位置が多少変わったり、形状が変わったりしても対応できるようになれば、ロボットが利用できる現場は一気に増えます。
NVIDIAも2026年3月、FANUCや安川電機を含む世界のロボット企業とフィジカルAIの実用化を進める方針を発表しています。7月にはFANUC、安川電機、川崎重工など日本企業もNVIDIA Cosmosを活用するフィジカルAIのエコシステムに参加する方針が示されました。
人手不足がロボット導入を「必要投資」に変える
フィジカルAIの最大の需要源は人手不足だと考えています。
日本では製造業、物流、建設、介護、農業、外食など、多くの産業で人材確保が難しくなっています。
これまでは、
「ロボットを導入すれば効率が良くなる」
という設備投資でした。
今後は、
「ロボットを導入しなければ仕事を回せない」
という状況が増える可能性があります。
実際、2026年4~6月期の産業用ロボット受注額は前年同期比40.0%増、生産額は24.3%増となり、受注・生産とも3四半期連続で過去最高を更新しました。
フィジカルAIによってロボットが扱いやすくなれば、これまで自動化できなかった中小工場や物流現場にも普及する可能性があります。
ヒューマノイドは巨大市場になる可能性がある
フィジカルAIで最も注目されるのが人型ロボット、いわゆるヒューマノイドです。
人間社会の建物や工場は、人間の身体を前提として作られています。
階段、ドア、棚、工具、作業台などをすべてロボット専用に作り直すより、人間に近い形をしたロボットが既存環境で働ければ導入しやすくなります。
ただし、私は2026年時点ではヒューマノイド市場を少し冷静に見ています。
大量生産、価格、バッテリー、耐久性、安全性など解決すべき問題は多く、本格的に利益を生むまで時間がかかる可能性があります。
したがって株式投資では、
「ヒューマノイドが普及するかもしれない会社」
だけではなく、
「現在の産業用ロボットでも利益を出し、ヒューマノイドが普及すればさらに伸びる会社」
を優先したいと思います。
ロボット本体より部品メーカーが面白い可能性
フィジカルAI投資で重要なのが「つるはし銘柄」です。
将来どのロボットメーカーが勝つかは分かりません。
しかし多くのロボットには、
減速機
サーボモーター
センサー
直動部品
カメラ
制御装置
などが必要です。
特にロボットの関節には、高精度で動きを制御する精密減速機が必要になります。
そのため私はロボットメーカーだけでなく、複数のメーカーへ重要部品を供給できるナブテスコやハーモニック・ドライブ・システムズも重要な投資対象だと考えています。
日本企業には意外に大きなチャンスがある
生成AIでは米国企業が圧倒的な存在感を持っています。
しかしフィジカルAIでは状況が少し違います。
日本には、
ロボット
サーボモーター
センサー
減速機
工作機械
FA設備
など、現実世界の機械を作る企業が大量に存在します。
経済産業省も、日本には幅広い製造業と現場データが存在することをフィジカルAIにおける日本の強みの一つと位置付けています。
AIの「頭脳」では米国勢が先行していますが、それを現実世界で動かす「身体」は日本企業が強い分野です。
私はここに日本株の大きな投資機会があると考えています。
一方でフィジカルAI株には期待先行のリスクもある
フィジカルAIを強気で見ていますが、株価についてはかなり注意が必要です。
「ヒューマノイド関連」と認識されただけで株価が急騰することがあります。
しかし現時点では、ヒューマノイド向け売上がほとんどない企業もあります。
そのため、
・フィジカルAI関連のニュースだけで急騰した
・ヒューマノイド向け売上がまだ小さい
・現在の利益に対してPERが非常に高い
・研究開発段階で量産時期が不透明
・中国企業との価格競争が激しい
といった銘柄には慎重です。
「将来市場が100倍になる」と「今その株を買えば儲かる」は別の話です。
ロボット(フィジカルAI)株を見るための投資判断軸
今回は「成長性」「フィジカルAI恩恵」「競争力・世界シェア」「株価水準」「財務・収益力」の5項目で評価します。
特にフィジカルAIでは、テーマへの純度だけではなく現在の利益を重視します。
将来ヒューマノイド市場が立ち上がらなくても既存事業で利益を出せる企業を上位にします。
有望銘柄① ファナック(6954)
フィジカルAI関連の第一候補はファナックです。
世界的な産業用ロボット・FA企業で、ロボット本体だけでなくCNC、サーボモーターなど工場自動化に必要な技術を幅広く持っています。
そして2026年7月、富士通とフィジカルAI分野での事業検討を開始しました。
NVIDIAの技術も利用しながら、AIが現実世界を認識・判断してロボットを動かす仕組みを産業現場へ実装していく方針です。
つまりファナックは「フィジカルAI関連と言われている会社」ではなく、実際にフィジカルAIを主力ロボット事業へ組み込もうとしている企業です。
業績も回復しています。
2027年3月期第1四半期は売上高2,310億円で前年同期比17.7%増、営業利益535億円で26.1%増、純利益510億円で34.7%増となりました。
投資判断軸
成長性:★★★★★
フィジカルAI恩恵:★★★★★
競争力・世界シェア:★★★★★
株価水準:★★★★☆
財務・収益力:★★★★★
総合投資判断:強気
2026年9月3日の終値は5,761円、予想PER27.15倍、PBR2.84倍です。5月14日の年初来高値8,880円からはかなり調整しています。
PERだけなら割安株ではありません。
しかしロボット、FA、サーボを持つ世界的企業であり、既存事業の利益が増えながらフィジカルAIという新しい成長テーマが追加されています。
「フィジカルAIが想定より普及しなくても既存事業が残る」という点も大きな強みです。
現時点ではフィジカルAI関連株の本命をファナックとします。
有望銘柄② 安川電機(6506)
2位は安川電機です。
フィジカルAIへの取り組みの積極性では、むしろファナック以上に注目したい企業です。
2026年7月にはソフトバンクとフィジカルAIを活用して柔軟な物体を扱うシステムを実証しました。
さらにAIロボット「MOTOMAN NEXT」とGoogle DeepMindの生成AIを連携させ、「エージェンティック・ロボットシステム」を開発しています。
従来のロボットは決められた動作を繰り返します。
MOTOMAN NEXTはAIを利用し、周囲の環境を認識しながら判断して作業する方向を目指しています。
これはまさにフィジカルAIです。
投資判断軸
成長性:★★★★☆
フィジカルAI恩恵:★★★★★
競争力・世界シェア:★★★★★
株価水準:★★★★☆
財務・収益力:★★★★☆
総合投資判断:やや強気~強気
2026年9月3日の株価は4,500円、予想PER24.8倍、PBR2.41倍です。
一方、業績にはまだ課題があります。
2027年2月期第1四半期は売上収益1,389億円で前年同期比10.6%増となりましたが、営業利益は84億円で19.2%減、純利益も21.7%減となりました。ロボット事業の収益性が低下しています。
つまり現在の安川電機は、
「フィジカルAIへの期待は非常に大きいが、足元のロボット利益はまだ弱い」
という状態です。
逆に言えば、ロボット事業の利益が正常化すれば株価の上昇余地も大きくなる可能性があります。
ファナックを「業績+フィジカルAI」で選ぶなら、安川電機は「フィジカルAIへの変化を先回りする銘柄」と考えています。
有望銘柄③ ナブテスコ(6268)
3位はナブテスコです。
ナブテスコはロボット本体を製造する会社ではありません。
産業用ロボットの関節部分に使用される精密減速機を手掛けています。
中大型産業用ロボットの関節用途では世界シェア約60%を持っています。
私はフィジカルAI投資でこうした部品メーカーをかなり重視しています。
将来、ファナックが勝っても、安川電機が勝っても、中国メーカーが勝っても、ロボットそのものの生産台数が増えれば関節部品の需要が増える可能性があるからです。
足元でも需要回復が鮮明です。
2026年第2四半期の精密減速機受注は前年同期比23%増となりました。上期全体では売上高1,674億円で16.8%増、営業利益157億円で69.4%増となっています。
さらに会社は2026年12月期の利益予想を上方修正しています。
投資判断軸
成長性:★★★★★
フィジカルAI恩恵:★★★★★
競争力・世界シェア:★★★★★
株価水準:★★★★★
財務・収益力:★★★★☆
総合投資判断:強気
2026年9月3日の終値は4,394円、会社予想PER21.4倍、PBR1.81倍です。
今回の4銘柄では株価水準とのバランスをかなり高く評価しています。
注意点は、現在の主力精密減速機が中大型産業用ロボット中心であり、将来の小型ヒューマノイド市場がそのまま現在の製品構成に直結するとは限らないことです。
それでも工場ロボットのフィジカルAI化が進めば恩恵は大きいでしょう。
テーマ性より現在の利益と株価を重視するなら、ファナック以上に投資妙味が出る可能性もある銘柄です。
有望銘柄④ ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)
4位はハーモニック・ドライブ・システムズです。
フィジカルAI、特にヒューマノイドというテーマでは非常に注目度の高い企業です。
小型・軽量で高精度な精密減速機を持ち、産業用ロボットだけでなく半導体製造装置や手術支援ロボットなどにも利用されています。
2027年3月期第1四半期は売上高166億円で前年同期比23.6%増、営業利益は前年同期の1億円から18億円へ急回復しました。受注回復を受けて会社は通期営業利益予想も62億円から85億円へ引き上げています。
需要回復と利益率改善という意味では非常に面白い局面です。
投資判断軸
成長性:★★★★★
フィジカルAI恩恵:★★★★★
競争力・世界シェア:★★★★★
株価水準:★☆☆☆☆
財務・収益力:★★★★☆
総合投資判断:中立~やや強気
2026年9月3日の株価は5,430円、予想PER85.67倍、PBR6.32倍です。7月6日には9,150円まで上昇しており、値動きも非常に大きくなっています。
企業としての将来性はかなり高く評価しています。
しかし現在の利益に対してPER80倍を超えるため、ヒューマノイド・フィジカルAIの成長期待がかなり株価へ入っています。
したがって「フィジカルAI本命企業だから積極的に買う」とは判断しません。
大きな調整時に狙う銘柄です。
ロボット(フィジカルAI)関連の有望銘柄ランキング
1位 ファナック(6954)
産業用ロボット+FA+NVIDIA・富士通とのフィジカルAI。既存利益と将来テーマのバランスを最も評価。
2位 安川電機(6506)
MOTOMAN NEXT+Google DeepMind+ソフトバンク。フィジカルAIへの直接的な取り組みでは本命級。
3位 ナブテスコ(6268)
ロボット関節用精密減速機で世界シェア約60%。利益回復とPER20倍前後の株価水準が魅力。
4位 ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)
ヒューマノイド恩恵への期待は大きいが、PER80倍超の高評価を考慮。
今回の順位はかなり悩みます。
「企業のフィジカルAIへの純度」なら安川電機を1位にしてもよいと思います。
「現在の株価水準」だけならナブテスコが1位候補です。
「ヒューマノイドが爆発的に普及する」という前提ならハーモニック・ドライブ・システムズの上昇余地も大きくなります。
しかし現時点では、既存ロボット事業ですでに大きな利益を出し、業績も増益で、NVIDIA・富士通とフィジカルAIを実装しようとしているファナックを最もバランスの良い銘柄と判断しました。
まとめ
ロボット・フィジカルAIについては、今後低迷する業界とは考えていません。
むしろ生成AIの次に大きくなる可能性のあるAI市場です。
日本政府も2026年からAIロボティクス戦略を本格化し、フィジカルAI向け国産基盤モデルの開発支援まで始めています。
一方、現段階ではフィジカルAIの多くが実証・開発段階であり、特にヒューマノイド市場については期待が実際の利益を大きく先行している銘柄があります。
そのため私が重視したいのは、「現在の産業用ロボットでも稼いでいる」「AIを実際のロボットへ組み込んでいる」「世界シェアの高い部品を持つ」「ヒューマノイド以外でも成長できる」「テーマ期待に対して株価が高すぎない」という企業です。
ロボット(フィジカルAI)の将来性を5段階で評価するなら「5」。
生成AIはパソコンやスマートフォンの中で仕事をしていました。
フィジカルAIが普及すれば、AIは工場、物流倉庫、建設現場、店舗、家庭へ出てきます。
私はここが非常に大きな変化だと考えています。
今後のロボット株では、単純に「人型ロボットを作る会社」を探すのではなく、「世界中のAIが身体を持ったとき、その身体を動かす技術を売れる会社」を探すことが重要になるでしょう。
現時点では本命をファナック(6954)、フィジカルAIへの変化を先回りする対抗を安川電機(6506)、株価水準まで重視するならナブテスコ(6268)とします。
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