輸送用機器業界の今後はどうなる?
輸送用機器業界について、私は今後3~5年を「やや強気」と見ています。
ただし、10年前までのように「世界の自動車販売台数が増えれば日本メーカーも自然に伸びる」という業界ではありません。
現在、自動車業界では大きく4つの競争が同時進行しています。
EV・ハイブリッドなどの電動化、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)、自動運転、中国メーカーとの価格競争です。
特に電動化については、数年前まで予想されていた「短期間ですべてEVへ移行」という流れから少し変化しています。
IEAによると2025年の世界EV販売は2,000万台を超え、新車販売の約4分の1まで拡大しました。2026年には約2,300万台、新車販売の28%程度まで増える見通しです。一方、日本では2025年のEV比率は3%未満にとどまり、ハイブリッド車は約3分の1を占めました。
つまりEV市場は確実に成長していますが、世界中が同じ速度でEVへ移行しているわけではありません。
私はこの変化が、日本メーカーにとって以前より有利な環境を作っていると考えています。
「EV一本勝負」ではなくマルチパスウェイが再評価される
日本メーカーはEVへの移行が遅いとして批判されることもありました。
しかし現在は、
ハイブリッド
プラグインハイブリッド
EV
燃料電池
低燃費エンジン
を地域によって使い分ける戦略が改めて重要になっています。
中国や欧州ではEV比率が高まっていますが、充電インフラが十分でない新興国では価格の安いガソリン車やハイブリッド車への需要がまだ大きく残ります。
さらに米国でもEV需要の伸び方が当初予想より不安定になっています。
ホンダは2026年3月、北米向けEV3車種の開発・発売を中止し、EV投資の一部を見直しました。その一方で次世代ハイブリッド車を強化する方向へ戦略を変更しています。
私はこれは「EVが終わった」という話ではなく、「EVだけに巨額投資するリスクが表面化した」と考えています。
今後は需要に合わせてEVとハイブリッドを使い分けられる企業が有利になるでしょう。
次の競争軸はSDV
輸送用機器業界で電動化以上に重要になる可能性があるのがSDVです。
SDVとは、購入後もソフトウェア更新によって車の機能を追加・改善できる自動車です。
スマートフォンがOSやアプリのアップデートによって進化するのと同じように、自動車もソフトウェアによって価値を高める方向へ進んでいます。
経済産業省と国土交通省は「モビリティDX戦略」を進め、日本メーカーのSDVについて2030年および2035年に世界販売シェア30%を目標としています。AIを活用した自動運転も重点分野に位置付けられています。
今後の自動車メーカーは、
「車を1台売って終わり」
ではなく、
車両販売
ソフトウェア
自動運転
保険
金融
メンテナンス
コネクテッドサービス
から継続的に利益を得る会社へ変わる可能性があります。
ここまで進めれば、自動車メーカーの利益率そのものが変わるかもしれません。
中国メーカーとの競争は最大のリスク
一方、日本メーカーにとって最大の脅威は中国です。
BYDなど中国メーカーはEVだけでなく、PHEV、ソフトウェア、車載AIなどでも急速に競争力を高めています。
価格競争力も非常に強く、中国市場では日本メーカーが苦戦しています。
実際、ホンダの2026年7月の中国生産台数は前年同月比24.9%まで減少しました。
今後私は「中国市場で昔のシェアを取り戻せるか」だけを期待する企業には慎重です。
むしろ、
北米
インド
ASEAN
中南米
アフリカ
など、中国以外でも成長できる企業を評価します。
インド市場は日本メーカーの大きなチャンス
その中で最も注目したいのがインドです。
人口が多く、自動車保有率にはまだ成長余地があります。
この市場で圧倒的な強みを持っているのがスズキです。
スズキは2030年度の四輪販売台数420万台を目標とし、インドを成長戦略の中心に位置付けています。インドではEVだけでなく、ハイブリッド、CNG、バイオ燃料などを組み合わせるマルチパスウェイ戦略を採用しています。
日本メーカーの中でも「成熟国ではなく、新興国の自動車普及そのものを取れる」という点は大きな魅力です。
商用車は自動運転との相性が良い
乗用車だけでなく、トラック・バスにも注目しています。
物流業界はドライバー不足が深刻です。
そのため乗用車より先に自動運転が実用化される可能性があるのが商用車です。
高速道路の決められた区間を走る大型トラックなどは、一般道を自由に走るロボタクシーより条件を限定しやすいためです。
いすゞ自動車は2027年度以降、レベル4自動運転トラック・バス事業を順次開始する計画で、2030年代には自動運転・コネクテッド・カーボンニュートラルなどの新事業で売上高1兆円規模を目指しています。
私は商用車を、輸送用機器業界の中でも意外に面白い成長分野だと見ています。
今後厳しくなりそうな輸送用機器企業
輸送用機器全体を低迷予想とはしませんが、次のような企業には慎重です。
・中国市場への依存度が高い
・EV投資負担が大きいのに販売が伸びない
・ハイブリッドなど代替技術を持たない
・ソフトウェア開発力が弱い
・価格競争で利益率が低下している
・世界販売台数が長期的に減っている
・為替の円安だけで利益を伸ばしている
特に注意したいのは、「売上は増えているが販売奨励金や値引きも増えている企業」です。
自動車業界では台数以上に、1台当たりどれだけ利益を出せているかを見る必要があります。
輸送用機器株を見るための投資判断軸
輸送用機器株では「成長性」「電動化・SDV対応」「世界競争力」「株価水準」「財務・株主還元」の5項目で評価します。
特に今回は、EVへの投資額そのものではなく「電動化投資から利益を出せるか」を重視します。
また自動車株はPER10倍前後で放置される企業も多いため、PBR、ROE、自社株買い、配当も重要な投資判断材料になります。
有望銘柄① スズキ(7269)
輸送用機器業界で第一候補にするのはスズキです。
最大の理由はインドです。
先進国の自動車市場が成熟する中、これから自動車普及率そのものが上昇する市場を持っていることは大きな強みです。
さらにスズキは大型高級車ではなく、小型・低価格・低燃費車を得意としています。
この商品構成はインド、ASEAN、アフリカなど人口増加地域との相性が非常に良いと考えています。
2027年3月期第1四半期は、インド・パキスタンなどで四輪販売が増加し、売上収益1兆7,058億円で前年同期比22.0%増、営業利益1,580億円で11.2%増となりました。
2030年度には四輪販売420万台、営業利益7,000億円を目標としており、インドを中心とした成長余地があります。
投資判断軸
成長性:★★★★★
電動化・SDV対応:★★★★☆
世界競争力:★★★★★
株価水準:★★★★★
財務・株主還元:★★★★☆
総合投資判断:強気
2026年9月3日の終値は2,108.5円、予想PER9.69倍、PBR1.15倍、予想配当利回り2.42%です。ROE実績は13.83%となっています。
ROE13%台の企業がPER10倍を下回っているという点を高く評価しています。
最大のリスクはインド市場での競争激化ですが、現在の利益成長と株価水準を考えると、輸送用機器株では最もキャピタルゲインを狙いやすいと考えています。
有望銘柄② ホンダ(7267)
2位はホンダです。
現在のホンダは評価が難しい会社です。
中国事業では苦戦し、2026年には北米EV戦略を大きく見直しました。
しかし私は、このEV戦略見直しを必ずしも悪材料だけとは考えていません。
需要が弱いEVへ赤字覚悟で投資し続けるのではなく、利益を出せるハイブリッドへ資金を戻したからです。
さらにホンダには世界最大級の二輪車事業があります。
2027年3月期第1四半期は営業利益5,307億円で前年同期比117.4%増、純利益4,509億円で129.3%増となり、四半期として過去最高の営業利益を達成しました。二輪事業の営業利益率は20.5%に達しています。
ホンダは2029年3月期に連結営業利益1兆4,000億円超を目指し、自動車事業の収益構造改革を進めています。
投資判断軸
成長性:★★★★☆
電動化・SDV対応:★★★★☆
世界競争力:★★★★★
株価水準:★★★★★
財務・株主還元:★★★★★
総合投資判断:強気
2026年9月3日の終値は1,718円、予想PER約16.7倍、PBR約0.56倍、予想配当利回り約4.1%です。
PBR0.6倍を下回っている点が最大の魅力です。
もちろん「安いのには理由がある」銘柄で、中国事業と自動車事業の収益改善を確認する必要があります。
しかし二輪と金融という強いキャッシュ創出事業を持ち、自動車事業まで回復すればPBR1倍方向への評価修正余地があります。
今回の4社では「業績改善による株価再評価」を最も狙いたい銘柄です。
有望銘柄③ トヨタ自動車(7203)
3位はトヨタ自動車です。
企業としての総合力なら当然1位候補です。
ハイブリッドでは世界トップクラスの競争力を持ち、EV、PHEV、燃料電池まで含めたマルチパスウェイ戦略を取っています。
EV市場の成長速度が地域によって違う現在の環境は、むしろトヨタに適していると考えています。
2027年3月期第1四半期は売上高13兆5,254億円で前年同期比10.4%増となりました。一方、営業利益は1兆634億円で8.8%減となっています。
通期でも営業利益3兆4,000億円、前期比9.7%減を見込んでいるため、足元の利益成長という意味ではスズキやホンダより弱くなっています。
一方、株主還元はかなり強化されています。
トヨタは2026年8月に最大1兆円規模の自社株買いを発表し、年間配当も100円を予定しています。
投資判断軸
成長性:★★★★☆
電動化・SDV対応:★★★★★
世界競争力:★★★★★
株価水準:★★★★★
財務・株主還元:★★★★★
総合投資判断:やや強気~強気
2026年9月3日の終値は3,117円、PER10.55倍、PBR1.13倍、実績配当利回りは約3%です。
世界最大級の自動車メーカーがPER10倍程度という点には安心感があります。
ただし時価総額が巨大なので、利益が20%、30%伸びる小型成長株のような値動きは期待しにくいでしょう。
私はトヨタを「大化け株」ではなく、輸送用機器業界の中心を長期で持つための銘柄と考えています。
有望銘柄④ いすゞ自動車(7202)
4位はいすゞ自動車です。
乗用車メーカーとは違い、トラック・バスを中心とする商用車メーカーです。
私が注目する理由は、物流業界の人手不足です。
ドライバー不足が深刻になるほど、
自動運転
運行管理
コネクテッドサービス
EVトラック
への需要が増えます。
いすゞは2030年に売上高6兆円、営業利益率10%以上を目標とし、さらに自動運転、コネクテッド、カーボンニュートラル関連の新事業を2030年代に売上高1兆円規模へ拡大する計画です。
2027年3月期第1四半期は売上高8,325億円で前年同期比6.8%増、営業利益748億円で30.7%増となりました。営業利益率も前年の7.3%から9.0%へ改善しています。
投資判断軸
成長性:★★★★☆
電動化・SDV対応:★★★★★
世界競争力:★★★★☆
株価水準:★★★★★
財務・株主還元:★★★★★
総合投資判断:やや強気~強気
2026年9月3日の終値は2,232.5円、予想PER9.6倍、PBR1.02倍、予想配当利回り4.21%です。
株価水準だけを見ると今回の4社でもかなり魅力があります。
第1四半期営業利益が30%増でPER10倍以下、配当利回り4%超という組み合わせです。
ただしトラック需要は景気循環の影響を受けやすいため、スズキやトヨタより事業変動は大きくなります。
自動運転商用車が実際の収益事業になれば、現在のPBR1倍程度から評価が変わる可能性があり、長期的には面白い銘柄です。
輸送用機器業界の有望銘柄ランキング
1位 スズキ(7269)
インド+小型車+マルチパスウェイ。ROE13%台に対してPER10倍以下という株価水準を最も評価。
2位 ホンダ(7267)
二輪+ハイブリッド+自動車事業再建。PBR0.6倍以下からの評価修正余地に注目。
3位 トヨタ自動車(7203)
世界販売力+ハイブリッド+EV+SDV。企業力は最上位だが足元は営業減益。
4位 いすゞ自動車(7202)
商用車+自動運転+物流人手不足。PER10倍以下、配当4%超で再評価余地あり。
企業そのものの強さならトヨタを1位にしてもおかしくありません。
しかし今回は「これから株価がどれだけ上昇する余地があるか」というキャピタルゲインも含めて評価しています。
そのためインドという成長市場を持ちながらPER10倍以下のスズキを1位、PBR0.6倍以下から業績回復による再評価を狙えるホンダを2位としました。
個人的には、今回の輸送用機器セクターではスズキとホンダの評価が今後どう変化するかを特に注視したいと思います。
まとめ
輸送用機器業界については、今後低迷する業界とは考えていません。
ただし大きな変革期にあり、これまで強かった企業がそのまま10年後も強いとは限りません。
世界EV販売は2026年に2,300万台程度まで拡大する見通しですが、地域によってEV普及速度には大きな差があります。
そのため今後私が重視したいのは、「EVだけでなくハイブリッドも持つ」「中国以外の成長市場を持つ」「SDV・自動運転へ対応できる」「ブランドと販売網が強い」「現在の利益に対して株価が高すぎない」という企業です。
輸送用機器業界の将来性を5段階で評価するなら「4」。
自動車産業はEVによって一度すべてがリセットされるように見えました。
しかし実際には、EV、ハイブリッド、ソフトウェア、自動運転を組み合わせる複雑な競争になっています。
私はこの状況では、特定技術へすべてを賭ける会社より、「地域と顧客に合わせて最適な車を売りながら、次世代技術へ移行できる会社」が最終的に強くなると考えています。
現時点ではキャピタルゲインを狙う本命をスズキ(7269)、業績回復とPBR改善を狙う対抗をホンダ(7267)とします。
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