精密機器業界は今後どうなる?
精密機器という業種には、かなり性格の異なる企業が含まれています。
例えば、
・半導体製造・検査装置
・分析計測機器
・医療機器
・内視鏡
・眼鏡・コンタクトレンズ
・光学機器
・カメラ
・産業用測定装置
などです。
そのため、精密機器業界全体を一つの市場として考えるより、どの成長産業とつながっているかを見ることが重要です。
私は、今後5〜10年を見ると、精密機器業界はかなり有望な業界だと考えています。
特に、
AI・半導体、医療、製造業の自動化
という長期成長分野と非常に相性が良いからです。
一方で、低価格の一般消費者向け光学機器などでは大きな成長を期待しにくく、企業間の差はさらに広がると考えています。
AI半導体の成長が精密機器にも追い風
今後の精密機器業界で最大級の成長テーマになるのが半導体です。
WSTSは2026年の世界半導体市場について、AIインフラ、HBM、高性能コンピューティングなどを背景に非常に強い成長を予想しています。2026年前半だけでも世界半導体市場は前年同期比で倍以上に拡大しました。
半導体が高度化するほど重要になるのが、
「作る技術」だけでなく「測る技術」
です。
半導体回路が微細化し、複数のチップを積層する先端パッケージが増えるほど、
・寸法測定
・位置合わせ
・表面検査
・ウエハー検査
・電気的テスト
・切断・研削
などに高い精度が求められます。
これは日本の精密機器メーカーが得意としてきた分野です。
「測る」技術の価値がさらに高まる
AI半導体では、数ナノメートル単位の精度が求められる世界になっています。
わずかなずれや欠陥でも歩留まりが悪化するため、高性能な計測・検査装置が必要です。
例えば東京精密は、
・半導体製造装置
・ウエハーテスト用プローバ
・研削装置
・ダイシング装置
・精密測定機器
などを展開しています。
同社は中期経営計画でも「半導体×精密測定」の技術シナジーを重視し、半導体の前工程・中工程・後工程をカバーする方向へ展開しています。
今後の半導体産業では、単純に生産設備を増やすだけでなく、より高度な計測・検査が必要になること自体が精密機器企業の成長要因になると考えています。
先端パッケージも新しい成長市場
生成AIではHBMなどをGPUの近くに配置し、複数のチップを組み合わせる先端パッケージ技術が重要になっています。
従来は、
「回路を細くする」
ことが半導体性能向上の中心でした。
今後は、
「複数の半導体をどれだけ高精度に組み合わせられるか」
も重要になります。
そのため、半導体後工程で使われる、
・プローバ
・測定装置
・検査装置
・研磨装置
・ダイシング装置
などにも成長余地があります。
精密機器業界はAIブームの表舞台には見えにくいものの、実際にはAI半導体を製造するために不可欠な企業が多く存在します。
医療機器も長期的な成長市場
精密機器業界でもう一つ重要なのが医療です。
経済産業省の医療機器産業ビジョンでは、世界の医療機器市場は2023年の約5,176億ドルから2027年には約6,543億ドルへ拡大し、2018〜2027年の年平均成長率は5.9%になると予測されています。
背景には、
・世界的な高齢化
・新興国の所得上昇
・早期診断の普及
・低侵襲治療
・医療DX
・AI診断
などがあります。
精密機器メーカーにとって医療分野は、短期的な景気変動の影響を比較的受けにくく、長期的な成長を期待しやすい市場です。
内視鏡など低侵襲医療が拡大
医療機器の中でも日本企業が強いのが内視鏡です。
内視鏡を使えば、大きく切開することなく診断や治療ができるため、
・患者の負担軽減
・入院期間短縮
・医療費削減
などにつながります。
オリンパスは現在、消化器、泌尿器、呼吸器、外科などを中心とする医療機器企業へ事業を集中しています。
今後は単に内視鏡画像を見るだけではなく、
AIが病変を発見する
といった診断支援技術も広がっていく可能性があります。
「精密光学+医療+AI」は、今後の精密機器業界を代表する成長分野の一つだと思います。
分析計測機器も成長が期待できる
島津製作所のような分析計測機器メーカーにも注目したいところです。
分析装置は、
・医薬品開発
・食品検査
・環境分析
・半導体
・電池
・新素材
・ライフサイエンス
など幅広い分野で使われます。
島津製作所は2026〜2028年度の中期経営計画で、ライフサイエンス、クリニカル、半導体などを成長分野とし、北米・インドでの事業拡大も進める方針です。
さらに2035年には売上高1兆円企業を目指しています。
研究開発が高度化するほど、「物質が何でできているのか」「どれだけ含まれているのか」を正確に分析する必要があります。
そのため分析計測機器は、AIや半導体だけに依存しない長期成長市場だと考えています。
製造業の自動化も追い風になる
世界的な人手不足を考えると、製造現場の自動化もさらに進みそうです。
工場を自動化するためには、
・寸法測定
・画像認識
・位置測定
・品質検査
・X線検査
・ロボット制御
などが必要になります。
つまり製造業が、
人が確認する工場
↓
センサー・カメラで確認する工場
↓
AIが自動判定する工場
へ変わるほど、精密計測技術の価値が高まります。
ニコンも2026〜2030年度中期経営計画で、画像測定、X線・CT検査、ロボティクス、半導体計測などを成長分野に位置付けています。
光学技術はAI時代にも必要になる
スマートフォンの普及によってコンパクトカメラ市場は大きく縮小しました。
しかし、「光学技術そのもの」が不要になったわけではありません。
むしろ、
・半導体
・医療
・自動運転
・AR・VR
・宇宙
・産業用画像認識
などへ用途が広がっています。
HOYAも、眼鏡・コンタクトレンズだけでなく、半導体用マスクブランクスや精密光学、医療関連製品などを展開しています。2026年3月期の売上構成はライフケア62%、情報・通信38%で、海外売上比率も高いグローバル企業です。
今後は「カメラ会社」「レンズ会社」という分類より、光を制御する技術をどの成長市場へ使えるかを見るべきだと思います。
今後成長が期待できる分野
精密機器業界で今後特に成長を期待したいのは、
・半導体製造・検査装置
・半導体計測
・先端パッケージ
・医療用内視鏡
・低侵襲治療機器
・分析計測機器
・ライフサイエンス機器
・工場自動化
・X線・CT検査
・精密光学
などです。
特に私は、
AI半導体+医療
の2つを中心に見ています。
どちらも今後5〜10年で市場そのものの拡大が期待でき、日本の精密機器メーカーが技術力を発揮しやすい分野だからです。
今後低迷が予想される分野
低価格帯の一般消費者向け光学機器
スマートフォンのカメラ性能向上によって、一般消費者向けの低価格カメラ市場は以前より大幅に縮小しました。
高級ミラーレスやプロ向けでは一定の需要が残るものの、数量成長を前提とした事業には戻りにくいでしょう。
汎用的な測定機器
技術的な差別化が小さい測定機器は、海外メーカーとの価格競争に巻き込まれやすくなります。
今後は単純な装置販売だけではなく、
・ソフトウェア
・自動化
・データ分析
・保守サービス
まで提供できる企業が有利になります。
国内市場だけに依存する医療機器
医療機器市場そのものは成長していますが、日本市場だけでは成長速度に限界があります。
厚生労働省も、日本企業の成長には規模の大きい米国をはじめとする海外市場の獲得が重要としています。
今後は世界市場で製品を販売できる企業との差が広がると考えています。
今後有望な銘柄
① 東京精密(7729)
精密機器業界で最も成長性に注目したいのが東京精密です。
同社の売上の中心は半導体製造装置で、ウエハーテストに使われるプローバでは世界トップクラスの競争力を持っています。
今後AI半導体が高度化すると、
・HBM
・チップレット
・先端パッケージ
・微細化
などによって検査工程がさらに重要になります。
東京精密は「半導体×精密測定」を成長戦略として掲げ、前工程から後工程まで製品領域を広げています。
2026年9月4日の終値は16,850円。
予想PER22.20倍、PBR3.60倍、予想配当利回り1.80%です。
年初来高値21,310円からは調整しているものの、年初来安値11,300円からはすでに大きく上昇しています。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★☆☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
AI半導体の成長を精密機器セクターから取り込むなら、最も分かりやすい銘柄の一つです。
半導体市況による株価変動は大きいものの、キャピタルゲインを重視するなら今回の本命と考えています。
② HOYA(7741)
HOYAは精密機器業界を代表する高収益企業です。
特徴は、
ライフケア+半導体関連
という全く性格の異なる2つの成長事業を持っていることです。
ライフケアでは、
・眼鏡レンズ
・コンタクトレンズ
・眼内レンズ
などを展開しています。
情報・通信分野では、
・半導体用マスクブランクス
・フォトマスク
・HDD用ガラス基板
などを持っています。
情報・通信事業は高い収益性を持っており、2025年3月期には同事業の営業利益率が54.1%に達しました。
2026年9月4日の終値は24,140円、PBRは7.95倍です。会社予想PERは表示されていません。
株価は4月の年初来高値30,400円から20%程度調整しています。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★☆☆☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
企業の質だけを考えれば今回の4社でトップクラスです。
一方でPBRは高く、100株では240万円以上必要になるため、現在の株価での投資しやすさでは東京精密や後述する2社より評価を下げました。
③ 島津製作所(7701)
島津製作所は、精密機器業界の中でも安定した長期成長を期待しやすい企業です。
主力の分析計測機器は、
・医薬品
・ライフサイエンス
・半導体
・食品
・環境
・新素材
など非常に多くの産業で使用されます。
2026〜2028年度中期経営計画では、ライフサイエンス、クリニカル、リカーリング事業を拡大し、半導体などの成長市場も強化する方針です。
2035年には売上高1兆円企業を目指しています。
2026年9月4日の終値は3,846円。
予想PER18.84倍、PBR1.93倍、予想配当利回り1.82%です。
年初来高値4,434円からは一定の調整が入っています。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★☆☆
総合投資判断:★★★★☆
東京精密ほど半導体市況に左右されず、医薬・ライフサイエンス・環境など複数の需要を取り込める点が魅力です。
急騰を狙うというより、中長期で利益成長を積み上げるタイプとして評価しています。
④ オリンパス(7733)
医療機器からはオリンパスを選びます。
現在のオリンパスはカメラ会社ではなく、消化器内視鏡を中心とする医療機器企業です。
消化器だけでなく、
・泌尿器
・呼吸器
・外科
などへ事業領域を広げています。
世界の医療機器市場が長期成長する中、低侵襲治療は今後も拡大しやすい分野です。
またオリンパスは2026年にBioProtectの買収を完了するなど、治療機器分野の強化も進めています。
2026年9月4日の終値は2,061円。
予想PER23.21倍、PBR2.93倍、予想配当利回り1.46%です。
年初来安値1,302円からはかなり上昇し、8月には2,210円まで回復しました。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★☆☆
株主還元:★★★☆☆
総合投資判断:★★★★☆
医療機器という市場そのものの成長力は魅力です。
ただし現在は収益構造の改善や事業再編も進めている段階なので、企業としての安定感ではHOYAや島津製作所をやや下に見ています。
まとめ
精密機器業界は、以前のように「カメラや時計などを作る業界」というイメージだけでは実態を捉えられなくなっています。
現在は、
・AI半導体
・先端パッケージ
・半導体計測・検査
・医療機器
・内視鏡
・ライフサイエンス
・工場自動化
・精密光学
など、今後世界的に成長が期待される産業と深く結び付いています。
特にAI半導体では、性能が高くなるほど製造精度も求められるため、
「作る技術」以上に「正確に測る・検査する技術」が重要になる
可能性があります。
医療についても、高齢化や新興国の経済成長、低侵襲治療の普及などによって世界市場の拡大が続くと考えられます。
そのため、精密機器業界の将来性を5段階で評価するなら「4」です。
今後5〜10年では比較的有望な業界だと考えています。
ただし、すべての精密機器メーカーが伸びるのではなく、半導体・医療・自動化など成長市場に強い企業と、成熟した製品に依存する企業との差がさらに広がるでしょう。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と株価上昇余地を重視して順位付けするなら、1位 東京精密(7729)、2位 HOYA(7741)、3位 島津製作所(7701)、4位 オリンパス(7733)と考えています。
本命は東京精密です。
AI半導体、HBM、先端パッケージが伸びるほど、高精度な検査・計測工程の重要性も増します。
株価はすでに評価されていますが、今後の利益成長という意味では今回の4社で最も大きな上昇余地を期待しています。
対抗はHOYAです。
半導体材料・精密光学とライフケアという2つの強い事業を持ち、収益力では非常に高い企業です。
ただし株価指標が高く、最低投資金額も大きいため、現在の株価からの上昇余地という観点では東京精密を上位としました。
島津製作所は、半導体だけに依存せず、医薬、ライフサイエンス、環境、新素材など多くの成長分野を取り込める点が魅力です。
オリンパスは、世界の医療機器市場拡大と低侵襲治療の普及という大きな追い風があります。事業改革が利益率向上につながれば、評価が一段上がる可能性があります。
精密機器業界は今後、「小さく精密なものを作る産業」から、「AI・半導体・医療の高度化に不可欠な測定・検査・光学技術を提供する産業」へ、さらに重要性を高めていくと考えています。
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