石油・石炭製品業界は今後どうなる?
石油・石炭製品業界というと、
・ガソリン
・軽油
・灯油
・ジェット燃料
・潤滑油
・コークス
などを扱う成熟産業というイメージが強いと思います。
特に日本では人口減少、自動車の燃費改善、EVの普及などによって、ガソリンを中心とした石油製品需要は長期的に減少する方向です。
実際、日本の石油需要は1999年度のピークからすでに3割以上減少しており、今後も縮小が続くと見込まれています。
そのため私は、**今後5〜10年を見ると、石油・石炭製品業界は「中立」**で見ています。
ただし、これは大手石油会社の将来性が低いという意味ではありません。
重要なのは、
「石油需要が減る会社」から「次のエネルギー・素材を作る会社」へ変われるか
です。
SAF、全固体電池材料、電力、資源、海外石油事業、高機能材料などへ転換できる企業には、業界全体以上の成長を期待できると考えています。
国内のガソリン需要は減少が続く
この業界にとって最大の逆風は、国内燃料油需要の縮小です。
自動車の燃費性能は以前より大幅に向上しています。
さらに、
・EV
・ハイブリッド車
・人口減少
・若年層の自動車離れ
などによって、ガソリン販売量が長期的に増加する可能性は低いでしょう。
石油元売り各社にとっては、
ガソリン販売量減少
↓
製油所の余剰能力増加
↓
固定費負担上昇
という問題が発生します。
そのため今後も製油所の統廃合や企業間連携が進むと考えています。
ただし石油はすぐになくなるわけではない
一方で、石油需要が減るからといって、数年で石油が不要になるわけではありません。
特に、
・航空機
・船舶
・大型トラック
・建設機械
・化学製品原料
・災害時の非常用燃料
などでは、石油を完全に代替することは簡単ではありません。
また近年は地政学リスクの高まりによって、
「必要なときに燃料を確実に供給できること」
の重要性が再認識されています。
石油会社は単なるガソリン販売会社ではなく、日本全国に、
・製油所
・油槽所
・タンカー
・タンクローリー
・サービスステーション
という巨大なエネルギー供給網を持っています。
このインフラそのものは、今後も大きな価値を持つと考えています。
製油所は「石油工場」からエネルギー拠点へ
今後、大手石油会社の製油所は役割そのものが変わっていく可能性があります。
従来は、
原油
↓
製油所
↓
ガソリン・軽油・灯油
という流れでした。
しかし今後は、
・SAF
・バイオ燃料
・合成燃料
・水素
・アンモニア
・再生プラスチック原料
・電力
なども扱う複合的なエネルギー拠点へ変わっていく可能性があります。
既存のタンク、港湾設備、パイプライン、物流網を利用できるため、新規参入企業より石油元売り企業の方が有利な部分もあります。
SAFは大きな成長市場になる
次世代燃料の中で特に実用化が近いのがSAFです。
SAFとは、廃食用油、バイオエタノールなどを原料として作る持続可能な航空燃料です。
航空機はEVのように大型バッテリーだけで長距離を飛ぶことが難しいため、航空業界の脱炭素ではSAFが重要になります。
日本では2030年に、国内航空会社が使用する航空燃料の10%をSAFへ置き換える目標が設定されています。
つまり現在ほとんど存在しない国内SAF市場を、これから数年間で大きく作る必要があります。
これは石油元売り企業にとって新しい市場になります。
出光興産はSAFを本格事業化
出光興産は千葉事業所で、バイオエタノールからSAFを製造するATJ方式の実証設備を進めています。
2026年度から供給を開始し、2030年には年間50万kLの生産体制を目指しています。
ガソリン需要が減ったとしても、
ガソリン
↓
SAF
へ製品を置き換えることができれば、既存の燃料供給企業としての強みを残すことができます。
私は、石油元売り企業の将来を見るうえでSAFは重要なポイントだと考えています。
全固体電池は石油会社のイメージを変える可能性
出光興産でもう一つ注目したいのが全固体電池です。
一般的なリチウムイオン電池では液体の電解質を使いますが、全固体電池では固体電解質を使用します。
期待されている特徴は、
・高いエネルギー密度
・充電時間短縮
・安全性向上
・EV航続距離拡大
などです。
出光興産は硫化物系固体電解質の技術を持ち、大型パイロット設備の建設を進めています。トヨタ自動車との協業では2027〜2028年の全固体電池実用化を目指しています。
ここが非常に面白いところです。
現在は「石油会社」と見られている出光興産が、
EV向け次世代電池材料メーカー
として評価される可能性があります。
石油会社が電池材料を作れる理由
一見すると、石油と全固体電池は正反対に見えます。
しかし出光興産が固体電解質に利用する硫化リチウム関連技術には、長年石油事業で扱ってきた硫黄に関する技術が生かされています。
つまり、
石油精製
↓
副生成物・技術蓄積
↓
高機能材料
↓
全固体電池
という流れです。
脱炭素によって既存事業が消えるだけではなく、既存事業で蓄積した技術から新しい産業が生まれる可能性があります。
ENEOSは国内から海外へ成長市場を移す
国内石油需要が減少するなら、海外へ出るという方法もあります。
ENEOSは2026年、Chevronが東南アジアやオーストラリアで展開する燃料・潤滑油事業を取得する契約を締結しました。
対象地域にはシンガポール、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、ベトナム、インドネシアなどが含まれています。取得額は約21.7億ドルで、2027年の完了を予定しています。
日本では石油需要が減りますが、東南アジアでは人口増加や経済成長によってエネルギー需要の増加余地があります。
つまりENEOSは、
日本国内中心
↓
アジア太平洋
へ事業基盤を広げようとしています。
ENEOSは巨大石油会社から総合エネルギー企業へ
ENEOSは石油精製だけでなく、
・石油・天然ガス開発
・電力
・再生可能エネルギー
・機能材
・バイオ燃料
などへ展開しています。
第4次中期経営計画では2027年度に、
・ROE 10%以上
・ROIC 6%以上
・在庫影響除き当期利益3,200億円
・在庫影響除き営業利益5,000億円
を目標としています。
さらに年間30円を起点とした累進配当を導入し、中計期間では在庫影響を除いた利益の50%以上を配当と自社株買いで還元する方針です。
石油需要が縮小しても、事業再編と海外展開によってEPSを伸ばせるかが今後のポイントになります。
コスモはAI・データセンター需要まで狙う
コスモエネルギーホールディングスも石油会社からの転換を進めています。
2026年に発表した「Vision 2035」では、
・石油と次世代エネルギーの一体化
・資源開発拡大
・電力供給拡大
・AI・半導体・データセンター関連分野
などを成長方向として掲げています。
2035年度には経常利益2,500億円、ROE15%以上を目標としています。
特に興味深いのが、AI・半導体・データセンターなど電力需要増加によって成長する市場を「NeXTグロース」としていることです。
石油会社自身が、
AI時代の電力需要増加
を新しい成長機会として捉え始めています。
株主還元の強さも業界の魅力
石油元売り企業の魅力の一つが株主還元です。
国内石油需要そのものは縮小しているため、成熟事業から生まれるキャッシュを、
・配当
・自社株買い
・新規事業投資
へ振り向けやすくなっています。
コスモエネルギーは2026〜2028年度の3年間で総還元性向60%以上、1株165円を下限とする配当方針を示しています。
出光興産も2026〜2030年度の5年間で総還元性向50%以上とし、36円を下限とする累進配当を導入しています。
高成長株ではなくても、
利益成長+配当+自社株買い
によって株価上昇を狙える業界になっています。
石炭・コークスは長期的には厳しい
一方、「石油・石炭製品」の中でも石炭関連は厳しく見ています。
世界的な脱炭素化が進む中、
・石炭火力発電
・製鉄用コークス
にはCO2排出削減への圧力があります。
特に発電用途では、
石炭
↓
天然ガス
↓
再生可能エネルギー・原子力
という流れが長期的に進む可能性があります。
鉄鋼分野でも大型電炉や水素還元製鉄が増えれば、コークス需要に影響します。
石炭やコークスだけに依存する企業については、長期的には慎重に見たいところです。
今後成長が期待できる分野
石油・石炭製品業界で今後特に成長を期待したいのは、
・SAF
・全固体電池材料
・海外燃料販売
・石油・天然ガス資源開発
・電力
・高機能潤滑油
・高機能化学材料
・ケミカルリサイクル
・水素、アンモニア
などです。
私は特に、
全固体電池+SAF+海外エネルギー
の3分野に注目しています。
従来型のガソリン事業とは全く違う利益源を作れる企業ほど、将来的な評価が高くなると考えています。
今後低迷が予想される分野
国内ガソリン販売だけに依存する事業
国内ガソリン需要は長期的に減少すると考えられます。
サービスステーション数を増やして販売量を伸ばす従来型の成長モデルは難しくなります。
競争力の低い製油所
国内需要が減るほど製油所の稼働率が重要になります。
古くコストの高い設備は統廃合の対象になりやすく、効率の高い製油所との差が広がるでしょう。
石炭・コークスへの依存度が高い企業
石炭火力削減や鉄鋼業の脱炭素化によって、中長期的な需要減少リスクがあります。
資源価格上昇による短期的な株価上昇はあっても、5〜10年という期間では成長事業として評価しにくいと考えています。
次世代事業への投資だけが膨らむ企業
SAF、水素、アンモニアなどは有望ですが、現在の石油事業ほど利益を稼げるとは限りません。
巨額投資を続けても採算が取れなければ、株主価値を減らす可能性があります。
そのため「新しいことをやっているか」だけではなく、実際に収益化できるかを見る必要があります。
今後有望な銘柄
① 出光興産(5019)
石油・石炭製品業界で最も成長性に注目したいのが出光興産です。
理由は、従来の石油会社から別の会社へ変わる可能性が最も大きいからです。
特に注目したいのが、
・全固体電池用固体電解質
・SAF
・高機能材料
・資源
・再生可能エネルギー
です。
2026〜2030年度中期経営計画では2030年度にROE13%以上、ROIC7%以上を目標とし、5年間で1.8兆円の投資を計画しています。
全固体電池用固体電解質については大型パイロット装置の建設が進んでおり、今後量産化へ移行できるかが最大の注目点です。
2026年9月4日の終値は1,470円。
予想PER23.73倍、PBR1.07倍、予想配当利回り2.45%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★☆☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
石油会社として見るとPERはやや高く感じます。
ただし全固体電池材料が本格的な事業になれば、将来的には「石油株」の評価ではなく「高機能材料株」の評価を受ける可能性があります。
今回の4社では、最も大きな事業変化を期待できる銘柄です。
② コスモエネルギーホールディングス(5021)
コスモエネルギーは、規模ではENEOSや出光興産より小さいものの、資本効率と株主還元を重視している点を評価しています。
2026年に策定したVision 2035では、
2035年度に経常利益2,500億円、ROE15%以上
を目標としています。
2026〜2028年度の第8次中期経営計画では経常利益1,900億円、ROE12%以上を目指し、3年間で2,900億円の成長投資を計画しています。
さらに配当は1株165円を下限とし、3年間の総還元性向60%以上を掲げています。
2026年9月4日の終値は4,347円。
予想配当は165円で、予想配当利回りは約3.8%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★★
石油事業から得られるキャッシュを、資源、電力、SAF、AI・データセンター関連などへ投資する戦略が明確です。
株主還元も強いため、成長と配当のバランスでは非常に魅力があります。
③ ENEOSホールディングス(5020)
ENEOSは国内最大の石油元売りですが、今後は海外事業の拡大に注目しています。
2026年にはChevronの東南アジア・豪州における燃料・潤滑油事業の取得を決定しました。
国内需要が減少する中で、
需要が伸びる海外市場へ事業そのものを移す
という戦略です。
第4次中期経営計画では2027年度ROE10%以上を目標としています。
また株主還元では累進配当を導入し、中計期間の利益の50%以上を配当と自社株買いで還元する方針です。
2026年9月4日の終値は1,345.5円。
予想PER8.70倍、PBR0.96倍、予想配当利回り2.53%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★★
割安度:★★★★★
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★☆
出光興産ほど新事業による爆発力はありませんが、巨大な既存事業、海外M&A、低PER・低PBR、自社株買いという組み合わせがあります。
PBR1倍割れが解消されるだけでも株価評価の見直し余地があります。
④ MORESCO(5018)
4社目は少し違うタイプとしてMORESCOを選びます。
同社は大手石油元売りではなく、
・特殊潤滑油
・ホットメルト接着剤
・合成油
・機能性材料
などを扱う特殊化学メーカーに近い企業です。
つまり一般的なガソリン需要よりも、
・自動車
・EV
・工場
・精密機械
・高機能材料
などの需要が業績を左右します。
2027年2月期第1四半期は売上高が前年同期比9.3%増、営業利益は約2倍となりました。
2026年9月4日の終値は2,374円。
予想PER14.06倍、PBR0.90倍、予想配当利回り2.32%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★☆
時価総額が約230億円と小さいため、利益成長が続けば大手3社より株価へのインパクトが大きくなる可能性があります。
一方で流動性が低く、大手石油会社より業績変動も大きいため、4位としました。
まとめ
石油・石炭製品業界は、国内市場だけを見ると長期的な成長産業とは言えません。
人口減少、自動車の燃費改善、EV普及などによって、ガソリンを中心とした燃料油需要は今後も減少すると考えられます。
石炭やコークスについても、世界的な脱炭素化によって長期的な需要には不透明感があります。
そのため、石油・石炭製品業界の将来性を5段階で評価するなら「3」です。
ただし、大手石油会社については「石油需要が減るから衰退する」と単純に考えるべきではないと思います。
今後5〜10年で、
・SAF
・全固体電池材料
・海外エネルギー
・電力
・資源
・高機能材料
・ケミカルリサイクル
などへ利益源を移すことができれば、会社そのものは成長できます。
つまり今後は、石油会社の中で事業転換に成功する企業と、従来型燃料事業に依存する企業との差が非常に大きくなると考えています。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と株価上昇余地を重視して順位付けするなら、**1位 出光興産(5019)、2位 コスモエネルギーホールディングス(5021)、3位 ENEOSホールディングス(5020)、4位 MORESCO(5018)**と考えています。
本命は出光興産です。
全固体電池用固体電解質が本格量産に入れば、現在の石油事業とは全く異なる成長事業が誕生します。
SAFも2030年に年間50万kLの生産体制を目指しており、今回の4社では「石油の次」を最も具体的に作ろうとしている企業だと考えています。
対抗はコスモエネルギーホールディングスです。
2035年度ROE15%以上という高い目標に加えて、AI・半導体・データセンターによる電力需要増加まで成長市場として取り込もうとしています。
配当165円を下限とする株主還元も魅力です。
ENEOSは企業規模が大きいため成長率では上位2社より低くなる可能性がありますが、海外M&Aによって国内需要減少から脱却しようとしています。PER1桁、PBR1倍前後という現在の株価水準から考えると、低評価修正を狙う銘柄として魅力があります。
MORESCOは大手石油元売りとは異なり、特殊潤滑油や機能材料を中心とする小型株です。石油需要減少の影響を比較的受けにくく、業績成長が続けば株価の上昇率では大手を上回る可能性があります。
石油・石炭製品業界は今後、「ガソリンや石炭を売る産業」から、「既存のエネルギー供給網と技術を使って、SAF・電池材料・電力・高機能素材など次のエネルギーを作る産業」へ転換できるかが最大のポイントになると考えています。
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