第一三共(4568)が2026年7月31日に発表した2027年3月期第1四半期決算を分析します。
売上収益は5747億4000万円で前年同期比21.1%増、コア営業利益は1072億6500万円で6.2%増となりました。
一方、営業利益は850億9700万円で12.0%減、純利益は686億3700万円で19.7%減です。
グローバル主力品のエンハーツとダトロウェイが大きく伸び、オンコロジービジネスユニットは50.5%増収となりました。
さらに会社は通期売上収益予想を2兆2800億円から2兆3400億円へ上方修正しています。
私は今回を、がん領域の成長力は非常に強い一方、利益率低下とコア外費用による営業減益も確認が必要な「成長性の高い好決算」と評価します。
今回の決算を5段階で評価
| 評価項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 売上収益 | ★★★★★ | 5747.40億円、21.1%増 |
| コア営業利益 | ★★★★☆ | 1072.65億円、6.2%増 |
| コア営業利益率 | ★★★☆☆ | 約21.3%→18.7%へ低下 |
| 営業利益 | ★★☆☆☆ | 850.97億円、12.0%減 |
| 純利益 | ★★☆☆☆ | 686.37億円、19.7%減 |
| オンコロジー | ★★★★★ | 売上1974億円、50.5%増 |
| エンハーツ | ★★★★★ | 欧米を中心に成長、米国売上も想定超 |
| ダトロウェイ | ★★★★★ | 適応拡大と販売開始が進展 |
| 研究開発 | ★★★★★ | 1154.55億円、9.0%増 |
| 通期予想 | ★★★★☆ | 売上2.34兆円へ上方修正 |
| 利益進捗 | ★★★★☆ | コア営業利益29.8%、純利益27.3% |
| CF | ★★★★★ | 営業CF203.32億円へ黒字転換 |
| 財務 | ★★★★☆ | 現金6378.50億円、持分比率41.4% |
| 株主還元 | ★★★★★ | 年78円→100円へ増配 |
| キャピタルゲイン期待 | ★★★★★ | ADC成長と適応拡大を高評価 |
売買判断
保有 ★★★★★
追加買い ★★★★☆
売却 ★☆☆☆☆
私は第一三共を保有継続します。
営業利益12%減、純利益19.7%減という表面上の数字だけを見ると弱く見えます。
しかし本業の収益力を見るコア営業利益は6.2%増で、オンコロジー事業は50%を超える増収です。
エンハーツ、ダトロウェイを中心としたADC事業の成長力は依然としてかなり強いと判断します。
追加買いも前向きですが、コア営業利益率が低下しているため、株価が急騰した場面を追うより押し目で増やしたいです。
売上収益は21.1%増
売上収益は前年4745億9700万円から5747億4000万円へ増加しました。
増加額は約1001億円です。
大きく貢献したのが、
エンハーツ
ダトロウェイ
です。
さらに円安も増収要因となっています。
為替による売上収益へのプラス影響は419億円でした。
つまり売上増加約1001億円のうち4割程度は為替効果です。
そのため21.1%増収をそのまま実力成長率と見るのではなく、製品成長+円安の両方による高成長と考えます。
オンコロジー事業は50.5%増収
今回最も強いのがオンコロジービジネスユニットです。
売上収益は、
前年 1312億円
今回 1974億円
となり、50.5%増加しました。
現地通貨ベースでも36.4%増となっています。
つまり円安を除いてもかなり高い成長です。
欧米でエンハーツとダトロウェイが伸びています。
第一三共が「日本の製薬会社」から、世界のがん領域で成長するグローバル製薬企業へ変化していることが数字にはっきり表れています。
エンハーツの適応拡大が続く
エンハーツでは第1四半期だけでも重要な進展がありました。
2026年5月には米国でHER2陽性早期乳がんの術前・術後療法について承認を取得しました。
さらに6月には欧州でHER2陽性の複数の固形がんを対象とする承認も取得しています。
転移・再発がんだけでなく、より早期の治療や複数のがん種へ対象を広げています。
製薬会社の大型製品では、
新規患者獲得
だけでなく、
適応症拡大
によって売上の天井を引き上げることが重要です。
エンハーツは現在まさにその段階にあります。
ダトロウェイも次の柱へ
ダトロウェイについても適応拡大が進んでいます。
2026年5月、米国でPD-1/PD-L1阻害剤による治療の対象とならないトリプルネガティブ乳がんの1次治療について承認を取得しました。
6月には欧州でも同適応について承認勧告を受けています。
エンハーツ1本だけに依存するのではなく、ダトロウェイを第二の大型ADCへ育てられるかが第一三共の今後を左右します。
今回の売上成長を見る限り、その方向性は順調です。
コア営業利益は6.2%増
コア営業利益は、
1010億500万円 → 1072億6500万円
となり、6.2%増加しました。
売上収益21.1%増と比べると利益成長率は低くなっています。
コア営業利益率を計算すると、
前年 約21.3%
今回 約18.7%
へ低下しています。
ここは今回の決算で最も注意したいポイントです。
なぜ売上ほど利益が伸びないのか
売上原価は43.9%増となりました。
販管費も25.5%増です。
特にエンハーツの販売拡大に伴い、共同開発するアストラゼネカとのプロフィット・シェア費用が増加しています。
さらに研究開発費も、
1059億5000万円 → 1154億5500万円
となり9.0%増えました。
つまり現在の第一三共は、
売上を伸ばす
だけでなく、
次の適応症・次のADCを作るために大きく投資している段階
です。
短期的には利益率を圧迫しますが、将来成長のための費用でもあります。
営業利益12%減の主因はコア外費用
コア営業利益は増益なのに、営業利益は12.0%減となりました。
コア外費用が、
前年 50億5300万円
今回 222億3900万円
へ大きく増えています。
EUスペシャルティビジネスユニットの事業再編費用などが影響しました。
したがって今回の営業減益を、そのまま本業悪化と判断する必要はありません。
私は、
営業利益12%減よりコア営業利益6.2%増
を重視します。
ただしコア営業利益率自体も低下していますので、完全に無視してよい減益でもありません。
純利益19.7%減も注意
親会社帰属利益は686億3700万円で19.7%減となりました。
営業利益減少に加えて金融費用と法人税負担が増えています。
金融費用は前年14億1900万円から32億3100万円へ増加しました。
会社も税負担増を理由に通期純利益予想を下方修正しています。
したがって、
売上は上方修正
営業利益も小幅上方修正
最終利益は下方修正
という少し複雑な決算です。
通期売上を2.34兆円へ上方修正
会社は通期予想を修正しました。
売上収益は、
2兆2800億円 → 2兆3400億円
へ600億円上方修正しました。
理由は円安に加えて、米国でのエンハーツ売上が想定以上に好調なためです。
営業利益は、
3150億円 → 3200億円
税引前利益は、
3290億円 → 3340億円
へ上方修正しています。
主力製品の売上が会社計画を上回っている点はかなり評価できます。
ただしコア営業利益予想は据え置き
一方、コア営業利益予想は3600億円で据え置かれています。
売上を600億円上方修正したのに、コア営業利益は増えていません。
会社は、
円安によるコスト面でのマイナス
エンハーツ売上増加に伴うプロフィット・シェア費用増加
などを理由に挙げています。
これは今後の株価を見るうえで重要です。
今後は単純な売上成長だけではなく、
売上増加をどれだけコア営業利益へ変換できるか
が重要になってきます。
最終利益予想は下方修正
親会社帰属利益予想は、
2600億円 → 2510億円
へ90億円下方修正されました。
通期前年比では10.3%減益予想です。
第1四半期も19.7%減益ですので、今期は最終利益よりも売上・コア営業利益・研究開発進展を見る年度だと考えます。
第一三共をキャピタルゲイン目的で見る場合、短期的な最終利益よりもADCの将来利益規模を重視したいです。
第1四半期の利益進捗は順調
修正後の通期予想に対する進捗率は、
売上収益 約24.6%
コア営業利益 約29.8%
営業利益 約26.6%
税引前利益 約27.3%
親会社帰属利益 約27.3%
です。
売上はほぼ25%ですが、コア営業利益は約30%まで進んでいます。
第1四半期としては順調です。
通期コア営業利益3600億円についても、現時点では十分達成を期待できるスタートと見ます。
営業CFは黒字転換
営業活動によるキャッシュ・フローは203億3200万円のプラスとなりました。
前年同期は365億6700万円のマイナスでした。
大きく改善しています。
投資活動によるCFも284億2200万円のプラスです。
単純に両者を合計すると約487億円のプラスとなります。
一方、財務CFは1224億6900万円のプラスとなりました。
主因は2000億円の社債発行・借入です。
その結果、現金及び現金同等物は大きく増加しました。
現金は6378億円
現金及び現金同等物は、
前期末4498億700万円
今回6378億5000万円
へ増加しています。
一方、非流動の社債・借入金も、
3000億7700万円 → 5000億200万円
へ増加しました。
つまり現金が増えた理由の一部は資金調達です。
親会社所有者帰属持分比率は42.1%から41.4%へ低下しました。
財務に大きな不安がある状態ではありませんが、単純に「現金が増えたから財務改善」と見る内容でもありません。
研究開発費1155億円
研究開発費は第1四半期だけで1154億5500万円です。
前年同期比9.0%増となりました。
第一三共は現在、
エンハーツ
ダトロウェイ
パトリツマブ デルクステカン
イフィナタマブ デルクステカン
ラルドタツグ デルクステカン
という5つのDXd ADCへ重点投資しています。
さらに「Next Wave」として、DXd ADCに続く新しい創薬技術の開発も進めています。
これは利益率を短期的に押し下げる一方で、2030年代の成長を作る投資でもあります。
イフィナタマブも次の注目材料
イフィナタマブ デルクステカンでは、進展型小細胞肺がんを対象とした米国での承認申請が受理され、優先審査に指定されています。
通常より短い審査期間が想定されます。
エンハーツ、ダトロウェイだけでなく、3番手以降のADCが承認・上市へ進めば、第一三共の成長力はさらに強くなります。
私は今後の株価を見るうえで、エンハーツの売上だけでなく5DXd ADC全体の成功確率を重視します。
第一三共ヘルスケアは段階的に売却
決算後の2026年7月1日、第一三共は第一三共ヘルスケア株式の30%をサントリーホールディングスへ譲渡しました。
譲渡対価は739億5000万円です。
さらに、
2027年6月 40%
2029年6月 残り30%
を譲渡する予定です。
今後は一般用医薬品よりも、がん・ADCを中心とする革新的医薬品へ経営資源をさらに集中することになります。
私はこれは、第一三共が何で稼ぐ会社になるのかをより明確にする事業ポートフォリオ改革と見ています。
年間配当100円へ増配
2027年3月期の年間配当予想は100円です。
前期78円から22円増、約28%の増配となります。
中間50円、期末50円を予定しています。
さらに第6期中期経営計画では累進配当を掲げ、調整後DOE10%以上を配当水準の指標としています。
利益が一時的に変動しても、株主還元を安定的に増やす方針です。
成長株でありながら配当も強化している点は評価できます。
3145万株を消却
第一三共は前期に最大2000億円の自己株取得枠を設定し、実際に取得した3145万株を2026年6月10日に全株消却しました。
配当だけでなく自社株買い・消却も活用しています。
キャピタルゲインという視点でも、発行済株式数の減少は1株当たり利益や1株当たり価値の向上につながります。
私ならどう売買するか
私は現在の保有分を維持します。
今回評価しているのは、
売上収益21.1%増
コア営業利益6.2%増
オンコロジー売上50.5%増
エンハーツ米国売上が会社想定を上回る
通期売上2.34兆円へ上方修正
コア営業利益進捗29.8%
営業CF黒字転換
年間配当78円→100円
です。
一方で、
コア営業利益率21.3%→18.7%
営業利益12.0%減
純利益19.7%減
通期純利益予想を2600億円→2510億円へ下方修正
は注意します。
そのため今回の決算を★★★★★までは上げず、一段抑えて評価します。
今回の私の結論
今回の第一三共の第1四半期決算は、成長力は非常に強いものの、利益面には確認点も残る好決算です。
売上収益は21.1%増となり、オンコロジービジネスユニットは50.5%増収しました。
エンハーツとダトロウェイが世界で成長し、通期売上予想も2兆3400億円へ上方修正されています。
一方、コア営業利益は6.2%増にとどまり、利益率は低下しました。
EU事業再編などのコア外費用によって営業利益は12%減、純利益も19.7%減となっています。
ただしエンハーツの適応拡大、ダトロウェイの成長、5DXd ADCへの研究開発投資を考えると、中長期の成長ストーリーは崩れていません。
そのため今回の総合評価は★★★★☆とします。
私は保有を継続し、株価調整局面では追加買いを検討します。
キャピタルゲインという視点では、
エンハーツの世界売上をさらに伸ばしながら、ダトロウェイや3番手以降のDXd ADCを大型製品へ育て、売上成長を再び利益率上昇へつなげられるか。
ここが次の焦点です。
コメント