パルプ・紙業界は今後どうなる?
パルプ・紙業界というと、
・新聞用紙
・コピー用紙
・印刷用紙
・段ボール
・ティッシュ
・トイレットペーパー
などを作る成熟産業という印象が強いと思います。
特に新聞、雑誌、カタログ、チラシなどはデジタル化によって需要が減少しています。
2026年の国内需要見通しでも、印刷・情報用紙には引き続き需要減少が見込まれています。
そのため、従来型の紙を大量に作って販売するだけでは、今後大きな成長を期待しにくいでしょう。
しかし、紙の原料である木材やパルプまで見ると状況は違います。
木材は再生可能な資源であり、
・プラスチック代替素材
・包装材料
・バイオ燃料
・セルロース素材
・バイオマス化学品
などへ利用できます。
私は、今後5〜10年を見ると、パルプ・紙業界は「中立」で見ています。
ただし、
「紙を作る会社」から「森林資源・包装・バイオマスを活用する会社」へ変われる企業
については、業界全体よりかなり高い成長を期待できると考えています。
新聞・印刷用紙の減少は止まりにくい
パルプ・紙業界にとって最大の逆風がデジタル化です。
新聞、雑誌、カタログ、企業資料、請求書など、多くの情報が紙からデジタルへ移っています。
特に、
・新聞用紙
・塗工紙
・コピー用紙
・情報用紙
などは長期的な需要減少を避けにくいでしょう。
今後生成AIやデジタルサービスがさらに普及すれば、企業のペーパーレス化も進みます。
したがって、
印刷用紙の需要回復を前提に製紙会社へ投資するのは難しい
と考えています。
一方で段ボールは簡単にはなくならない
印刷用紙と大きく違うのが段ボールです。
ネット通販で商品を購入しても、商品そのものは物理的に運ばなければなりません。
つまり、
店舗で買う
↓
ネットで注文する
↓
物流センターから配送する
↓
段ボールが必要になる
という変化が起こります。
ECだけでなく、
・食品
・飲料
・家電
・医薬品
・工業製品
などでも段ボールは大量に使用されます。
国内人口減少によって段ボール市場が急成長するわけではありませんが、印刷用紙と比較すると需要はかなり安定していると考えています。
「脱プラ」が紙の新しい成長市場になる
今後のパルプ・紙業界で特に重要になるのがプラスチック代替です。
世界的に環境規制が強まり、
・プラスチック容器
・プラスチック包装
・ストロー
・食品容器
・ショッピングバッグ
などを紙へ置き換える動きがあります。
例えば、
プラスチック包装
↓
紙包装
プラスチック容器
↓
紙+バリアコーティング
という流れです。
紙は水や油に弱いという問題がありますが、特殊なコーティング技術を組み合わせれば用途を広げられます。
今後は単純な紙ではなく、
プラスチックを置き換えられる高機能紙
が重要になります。
包装材は「紙だけ」ではなく総合化する
包装市場では、段ボールだけを作ればよいわけではありません。
商品によって、
・段ボール
・紙器
・フィルム
・ラベル
・重量物包装
・物流包装
などを使い分けます。
そのため今後は、
包装に必要なものを一括して提供できる会社
が有利になると考えています。
この方向へ最も進んでいるのがレンゴーです。
レンゴーは段ボールだけでなく、紙器、軟包装、重包装、海外包装などへ事業を広げ、「総合包装企業」として成長しています。
レンゴーは海外包装を成長させる
レンゴーは2030年3月期までの中期ビジョン「Vision120」で、
売上高1兆2,000億円
営業利益700億円
ROE8.5%
を目標としています。
2026年3月期の売上高は約1兆円ですから、今後は単純な国内段ボール需要だけではなく、海外事業や高付加価値包装によって事業規模を拡大する計画です。
特に海外関連事業については、2030年3月期に売上高3,000億円を目指しています。
国内人口が減少しても、
アジア・欧州・米国の包装需要を取り込める
ことが大きな強みになります。
森林そのものが企業資産になる
製紙会社には一般企業にはあまりない大きな資産があります。
それが森林です。
製紙会社は紙の原料となる木材を確保するため、日本国内だけでなく海外にも森林を保有しています。
今後この森林は、
紙の原料
↓
木材
↓
バイオマス原料
↓
CO2吸収源
として利用価値が広がる可能性があります。
森林は成長する過程でCO2を吸収します。
そのため脱炭素社会では、適切に管理された森林そのものが企業価値を持つ可能性があります。
王子ホールディングスは森林資源企業へ
この変化を最も大きく取り込める可能性があるのが王子ホールディングスです。
現在の王子は、
・包装
・機能材
・パルプ
・森林資源
・木材
・印刷用紙
などを持つ総合素材企業です。
今後はさらに、
・サステナブルパッケージ
・バイオエタノール
・バイオマスプラスチック
・バイオマスフィルム
・バイオマス由来化学品
・医薬品関連
などへ事業を広げようとしています。
つまり、
「木を紙にする会社」から「木を使ってさまざまな素材を作る会社」
へ変わろうとしています。
木から石油代替製品を作る時代へ
パルプ・紙業界で今後大きな可能性があるのがバイオリファイナリーです。
現在、プラスチック、化学品、燃料などの多くは石油から作られています。
しかし木材には、
・セルロース
・ヘミセルロース
・リグニン
など、さまざまな成分が含まれています。
これらを分解・加工すると、
・バイオプラスチック
・化学原料
・燃料
・機能材料
などを作れる可能性があります。
経済産業省も、デジタル化で紙需要が減少する一方、パルプには化石燃料由来製品を代替する可能性があるとして、製紙産業からバイオリファイナリー産業への展開を後押ししています。
これはパルプ・紙業界にとって非常に重要な方向転換です。
セルロースナノファイバーも長期テーマ
木材から作られる次世代材料として知られているのがセルロースナノファイバーです。
植物繊維を非常に細かくした素材で、
・軽量
・高強度
・植物由来
という特徴があります。
用途としては、
・自動車
・化粧品
・食品
・包装
・樹脂強化材
・電子材料
などが期待されています。
日本製紙は「セレンピア」というセルロースナノファイバーを展開しています。
まだ市場規模は大きくありませんが、量産コストが低下し用途が広がれば、将来的には「紙ではない木材事業」の代表例になる可能性があります。
日本製紙は総合バイオマス企業を目指す
日本製紙も従来型の印刷用紙への依存から脱却しようとしています。
2026〜2030年度の新しい中期経営計画では、
・バランスシート最適化
・不採算事業の構造改革
・森林・木材関連事業拡大
・生活関連事業強化
などを進めます。
2030年度には、
売上高1兆3,000億円
生活関連事業の売上高6,500億円以上
海外売上高比率30%以上
ROE7%以上
を目指しています。
重要なのは、従来のグラフィック用紙ではなく、
生活関連+森林・木材+新規バイオマス事業
へ収益源を移そうとしていることです。
衛生用紙は人口減少でも比較的安定
新聞・印刷用紙とは違い、
・ティッシュ
・トイレットペーパー
・キッチンタオル
・紙おむつ
・生理用品
などは生活必需品です。
デジタル化してもトイレットペーパーはなくなりません。
そのため家庭紙・衛生用品は、パルプ・紙業界では比較的安定した市場です。
ただし日本国内だけでは人口減少の影響を受けるため、
・高付加価値化
・値上げ
・海外販売
が重要になります。
大王製紙は「エリエール」を成長させられるか
大王製紙は新聞用紙や印刷用紙も持っていますが、「エリエール」という強い家庭紙ブランドを持っています。
ティッシュやトイレットペーパーだけでなく、
・紙おむつ
・生理用品
・ウェットティッシュ
・ペーパータオル
など幅広い生活用品を展開しています。
今後は国内家庭紙だけではなく、海外の衛生用品市場を成長させられるかが重要になります。
新興国では人口増加や所得上昇によって、紙おむつや衛生用品の市場拡大が期待できます。
災害対策でも紙製品は必要になる
紙製品には、防災という意外な需要もあります。
例えば災害時には、
・段ボールベッド
・段ボール間仕切り
・トイレットペーパー
・紙容器
などが必要になります。
特に段ボールは、
軽い
↓
大量輸送しやすい
↓
組み立てられる
↓
使用後にリサイクルできる
という特徴があります。
災害が多い日本では、段ボールや家庭紙は社会インフラとしての意味も持っています。
エネルギー価格が利益を大きく左右する
パルプ・紙産業の弱点は、大量のエネルギーを使用することです。
紙を作るには、
・木材をパルプ化する
・水分を飛ばす
・乾燥させる
必要があり、大量の熱と電力を使用します。
そのため、
・原油
・石炭
・天然ガス
・電力
などの価格が上昇すると利益が圧迫されます。
さらに海外から木材チップやパルプを輸入する場合、円安もコスト増加要因になります。
製紙株を見る場合には、製品価格だけでなくエネルギーと為替も重要になります。
今後成長が期待できる分野
パルプ・紙業界で今後特に成長を期待したいのは、
・段ボール
・総合包装
・海外パッケージ
・脱プラ紙素材
・高機能包装紙
・森林・木材事業
・バイオマスプラスチック
・バイオエタノール
・セルロースナノファイバー
・家庭紙・衛生用品
などです。
特に私は、
包装+森林資源+バイオマス
の3つに注目しています。
今後の製紙会社を見る際には、「紙の生産量」よりも、
紙以外からどれだけ利益を稼げるようになるか
を見ることが重要になると考えています。
今後低迷が予想される分野
新聞用紙
新聞の発行部数減少が続いているため、需要が長期的に回復する可能性は低いでしょう。
製紙会社側も生産能力を需要に合わせて縮小する必要があります。
印刷・情報用紙
企業のペーパーレス化、電子書籍、ネット広告などによって需要減少が続く可能性があります。
価格改定で利益を維持できても、数量成長は期待しにくい分野です。
国内市場だけに依存する製紙会社
国内人口減少とデジタル化の両方を受けるため、日本で紙を作って日本で販売するだけでは成長が難しくなります。
海外包装、森林事業、生活用品などを持つ企業との差が広がるでしょう。
紙への依存度が高すぎる企業
紙需要が縮小する中で、印刷用紙から別事業へ経営資源を移せない企業は厳しくなります。
今後は設備廃棄や工場再編を進めながら、新しい利益源を育てられるかが重要になります。
今後有望な銘柄
① 王子ホールディングス(3861)
パルプ・紙業界で本命として最も注目したいのが王子ホールディングスです。
最大の理由は、
「製紙会社」から「森林資源を利用する総合素材企業」へ変わる余地が大きい
ことです。
今後は、
・サステナブルパッケージ
・森林資源
・木材
・バイオエタノール
・バイオマスプラスチック
・機能材
などを育成します。
中期経営計画では2027年度に、
営業利益1,200億円
ROE8%
を目標としています。
さらに株主還元も強化し、配当性向50%を基本としています。
2026年9月4日の終値は875.2円。
予想PER21.48倍、PBR0.69倍、予想配当利回り4.11%です。
年初来高値991円からは一定の調整が入っています。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★★
現在の利益水準から見るとPERはそれほど低くありませんが、PBRは0.7倍を下回っています。
森林資源やバイオマス事業が新しい利益源となり、ROE8%へ改善できれば、低PBR修正も期待できます。
今回の4社では、成長余地と配当、株価水準のバランスを最も高く評価しています。
② レンゴー(3941)
2番目に注目したいのがレンゴーです。
同社の魅力は、
縮小する印刷用紙ではなく、包装を事業の中心にしていること
です。
国内では段ボール最大手であり、
・製紙
・段ボール
・紙器
・軟包装
・重包装
・海外包装
を持っています。
2030年3月期には、
売上高1兆2,000億円
営業利益700億円
ROE8.5%
を目標としています。
特に海外関連事業を売上高3,000億円まで拡大する計画です。
2026年9月4日の終値は1,566.5円。
予想PER12.45倍、PBR0.76倍、予想配当利回り3.19%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
ネット通販、物流、食品などが存在する限り包装需要はなくなりません。
さらに海外事業を伸ばせれば国内人口減少の影響を抑えることができます。
派手な成長株ではありませんが、PER12倍台、PBR1倍割れという株価水準を考えると中長期で評価しやすい銘柄です。
③ 日本製紙(3863)
日本製紙は今回の4社では最も「変化」に期待する銘柄です。
現在の課題は、従来型の紙事業への依存と財務負担です。
そのため2026〜2030年度の中期経営計画では、
・不採算事業の構造改革
・有利子負債削減
・生活関連事業強化
・森林・木材事業拡大
・新規バイオマス事業
などを進めます。
2030年度には売上高1兆3,000億円、ROE7%以上を目標としています。
2026年9月4日の終値は1,306円。
PBRは0.29倍、予想配当は15円、予想配当利回りは1.15%です。
PBR0.3倍を下回るという極めて低い評価になっています。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★☆☆☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★☆☆☆
総合投資判断:★★★★☆
現在の企業収益力は王子やレンゴーより低く、財務面にも課題があります。
一方、だからこそ構造改革が成功した場合の株価変化率は大きくなる可能性があります。
「優良株」というより、PBR0.3倍からのターンアラウンドを狙う銘柄として注目しています。
④ 大王製紙(3880)
大王製紙は家庭紙・衛生用品を持っている点を評価しています。
「エリエール」という強いブランドを持ち、
・ティッシュ
・トイレットペーパー
・紙おむつ
・生理用品
・ウェットティッシュ
などを展開しています。
印刷用紙はデジタル化によって需要が減っても、生活必需品の需要は比較的安定しています。
また海外の衛生用品事業を成長させることで、日本の人口減少を補える可能性があります。
2026年9月4日の終値は962円。
予想PER12.36倍、PBR0.65倍、予想配当利回り1.46%です。
年初来高値1,244円からは2割以上調整しています。
成長性:★★★☆☆
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★☆☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★★☆☆
総合投資判断:★★★★☆
現在のROEや利益率は高くありません。
しかしPBR0.7倍を下回る株価で、家庭紙・衛生用品の収益性改善や海外事業拡大が進めば、評価修正の余地があります。
今回の4社では、成長株というより業績回復型として見たい銘柄です。
まとめ
パルプ・紙業界は、従来型の「紙」という商品だけを見ると長期的な成長産業とは言えません。
新聞、雑誌、カタログ、コピー用紙などはデジタル化によって今後も需要減少が続く可能性があります。
その一方で、
・段ボール
・総合包装
・脱プラ紙素材
・森林資源
・木材
・バイオマス素材
・セルロースナノファイバー
・家庭紙・衛生用品
などには成長余地があります。
特に重要なのは、木という原料自体が再生可能な資源であることです。
脱炭素化が進むほど、
石油由来素材を木質由来素材へ置き換える
という市場が生まれる可能性があります。
そのため、パルプ・紙業界の将来性を5段階で評価するなら「3」です。
今後5〜10年では業界全体が成長するというより、印刷用紙への依存度を下げ、包装・森林資源・バイオマスへ転換できる企業だけが成長する業界になると考えています。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と現在の株価からの上昇余地を重視して順位付けするなら、1位 王子ホールディングス(3861)、2位 レンゴー(3941)、3位 日本製紙(3863)、4位 大王製紙(3880)と考えています。
本命は王子ホールディングスです。
PBR0.7倍を下回り、配当利回りも4%台あります。
それでいて森林資源、サステナブルパッケージ、バイオマスプラスチック、バイオエタノールなど、「紙の次」になる事業を複数持っています。
ROE8%という目標へ収益性が改善すれば、利益成長だけでなくPBRの見直しも期待できます。
対抗はレンゴーです。
新聞・印刷用紙より将来性の高い包装分野を中心としていることに加え、海外事業の拡大が期待できます。
物流や食品が存在する限り包装は必要であり、紙だけでなく軟包装まで含む総合包装企業へ進んでいる点を評価しています。
日本製紙は今回の4社で最もリスクがありますが、同時に現在の株価評価も最も低く、PBRは0.3倍を下回ります。
構造改革、森林・木材事業、生活関連事業への転換によってROEが改善すれば、株価の変化率では上位2社を超える可能性もあります。
大王製紙はエリエールという強い生活用品ブランドを持っています。国内の紙需要減少から完全に逃れることはできませんが、家庭紙と海外衛生用品を伸ばせれば、現在の低PBRから評価が変わる可能性があります。
パルプ・紙業界は今後、「新聞や印刷用の紙を大量に作る産業」から、「森林という再生可能資源を使って、包装・生活用品・バイオ素材・燃料まで作る産業」へ転換できるかが最大のポイントになると考えています。
コメント