食肉業界は今後どうなる?
食肉業界には、牛肉・豚肉・鶏肉の生産や販売に加えて、ハム、ソーセージ、調理済み食品などの加工事業が含まれます。
日本国内では人口減少が進む一方、食肉は日々の食生活に欠かせない食品です。そのため、需要が突然なくなるような業界ではありません。
ただし、販売数量を大幅に増やすだけでは、今後の成長には限界があると考えています。
私は、今後5〜10年を見ると、食肉業界は「中立からやや強気」で見ています。
特に注目したいのは、国内で安定した販売基盤を持ちながら、海外の食肉需要、高付加価値商品、調理済み食品を取り込める企業です。
和牛輸出は食肉業界の成長市場になる
日本の食肉業界で特に注目したいのが、和牛の海外輸出です。
和牛は、霜降りの美しさや品質によって海外でも知られています。
2025年の日本の牛肉輸出額は731億円となり、前年比12.8%増加しました。米国、台湾、香港などへの販路拡大が成長を支えています。
国内人口が減少しても、海外で和牛を購入する人が増えれば、生産者や食肉加工・販売企業には新しい市場が生まれます。
今後は高級部位だけでなく、さまざまな部位を海外へ販売できる体制づくりが重要になるでしょう。
海外では牛肉の調達・販売網そのものが価値になる
食肉企業の海外展開は、日本産の肉を輸出することだけではありません。
海外で牛や豚を調達し、現地の工場で加工して、別の国へ販売する方法もあります。
例えば、
ニュージーランドで牛肉を調達
↓
現地工場で加工
↓
米国・欧州・アジアへ販売
という流れです。
世界の食肉需要を取り込むには、日本から輸出する事業と、海外で調達・加工・販売する事業の両方が重要になると考えています。
伊藤ハム米久はニュージーランド事業を拡大
この分野で注目したいのが伊藤ハム米久ホールディングスです。
同社はニュージーランドの食肉事業会社ANZCO Foodsを傘下に持っています。
さらに2026年6月には、ニュージーランドの食肉加工販売会社Greenlea Groupを約760億円で取得する契約を発表しました。
取得が完了すれば、ANZCOとGreenleaを合わせた牛の処理能力は年間約61万頭となる見込みです。
国内でのハム・ソーセージ販売だけでなく、世界の牛肉需要を取り込む事業へと成長できるかが注目点になります。
ただし、大型買収には資金負担も伴います。買収後に収益性を高められるかを確認する必要があります。
日本ハムは国内と海外の両方で事業を拡大
日本ハムは、シャウエッセンなどの加工食品だけでなく、牛肉・豚肉・鶏肉の調達、加工、販売まで幅広く手がけています。
国内では食品スーパーや外食企業向けの食肉販売が大きな収益源です。
一方、海外では豪州の牛肉事業や北米の加工食品事業などを展開しています。
2027年3月期第1四半期は、
売上高3,849億円
事業利益194億円
となり、前年同期から増収増益となりました。
食肉事業の利益成長に加え、加工食品では高付加価値商品への転換を進めています。
私は、日本ハムの今後を見るうえで、国内食肉事業の収益力を維持しながら、海外事業と加工食品をどこまで成長させられるかが重要だと考えています。
調理済み食品は共働き・単身世帯の増加が追い風
国内食肉市場の中で成長余地があるのが、調理の手間を減らせる商品です。
例えば、
・温めるだけのハンバーグ
・調理済みチキン
・冷凍ミートボール
・味付け済みの焼肉用商品
・電子レンジ対応の惣菜
などです。
共働き世帯や単身世帯では、毎日の食事を短時間で用意したいという需要があります。
食肉企業が原料肉を販売するだけでなく、調理・味付け・小分けまで行えば、消費者にとっての利便性を高められます。
その分、単純な原料肉より高い付加価値を生み出す余地があります。
加工食品ではブランド力と価格転嫁力が重要
食肉加工品には原料価格の変動という問題があります。
豚肉や鶏肉の価格が上昇すれば、ハムやソーセージの製造原価も上がります。
そこで重要になるのが、価格を引き上げても購入してもらえるブランド力です。
日本ハムのシャウエッセン、伊藤ハムのアルトバイエルン、プリマハムの香薫などは、消費者に認知された商品です。
今後は低価格の商品を大量に販売するだけでなく、品質・味・調理の手軽さによって価格を維持できる商品を持つ企業が有利になると考えています。
健康志向は高たんぱく食品の需要につながる
食肉はたんぱく質を含む食品です。
筋力トレーニングを行う人だけでなく、日々の食事でたんぱく質を意識する人にとっても、肉や食肉加工品は身近な選択肢になります。
例えば、
・サラダチキン
・低脂肪の鶏むね肉商品
・小分けされた調理済み肉
・食べやすさを工夫した高齢者向け商品
などです。
ただし、食肉なら何でも健康的というわけではありません。脂質や塩分、食事全体のバランスにも配慮する必要があります。
今後は単純な「肉の量」よりも、栄養・食べやすさ・調理の簡便性を組み合わせた商品開発が重要になるでしょう。
鶏肉は価格と使いやすさが強み
牛肉、豚肉、鶏肉では、それぞれ需要の特徴が異なります。
鶏肉は比較的購入しやすい価格帯の商品が多く、家庭料理、弁当、外食など幅広い用途で使用されます。
さらに、唐揚げ、焼き鳥、サラダチキン、冷凍食品など、加工品との相性も良い食品です。
食費を抑えたい消費者が増える中、価格と調理のしやすさを両立できる鶏肉には、今後も底堅い需要があると考えています。
一方、鳥インフルエンザの発生や飼料価格の上昇によって供給量・価格が大きく変わる可能性があります。
飼料価格と為替が利益を左右する
食肉業界の大きな弱点が、生産コストの変動です。
牛、豚、鶏を育てるためには大量の飼料が必要になります。
その原料には、トウモロコシや大豆かすなどが使用されます。
日本では飼料原料の多くを輸入に頼っているため、
・国際穀物価格
・円相場
・海上運賃
・エネルギー価格
などが畜産コストを左右します。
原料価格が上昇しても、販売価格へ十分に転嫁できなければ利益は減少します。
食肉企業の業績を見る場合には、売上高だけでなく、仕入れ価格と販売価格の差をどれだけ確保できているかを確認する必要があります。
家畜の疾病も見逃せないリスク
食肉業界では、家畜の疾病も重要なリスクです。
鳥インフルエンザや豚熱などが発生すると、家畜の処分や移動制限によって生産・供給に影響が出る可能性があります。
また、輸出先の国や地域が輸入条件を変更した場合、予定していた販路を利用できなくなることもあります。
そのため、国内外に複数の生産・調達拠点を持つことには、販売拡大だけでなく供給リスクの分散という意味もあります。
エスフーズは和牛輸出と海外牛肉事業を展開
エスフーズは、国内外の食肉調達・販売から加工、小売、外食まで手がける企業です。
特に注目したいのが、和牛の輸出と米国の牛肉事業です。
同社は神戸ビーフを含む国産牛肉を海外へ販売しており、米国ではオーロラビーフなどの事業を展開しています。
また、米国の新工場による供給能力の増強や、国内食肉販売拠点の整備も進めています。
食肉の生産・調達から加工、販売までをつなぐ事業構造が特徴です。
ただし、米国牛肉市況や海外事業の立ち上げが想定より厳しくなると、利益が大きく変動します。
私は、和牛輸出の拡大と海外投資の収益化を同時に確認したい企業だと考えています。
プリマハムは加工食品の高付加価値化に注目
プリマハムは、香薫などのハム・ソーセージに加え、食肉、惣菜、業務用食品などを展開しています。
加工食品では、家庭向けの商品だけでなく、スーパーの惣菜や外食向けなど、さまざまな販売先があります。
今後は、
・高付加価値のハム・ソーセージ
・簡便調理商品
・惣菜
・業務用加工食品
などを強化することで、単純な販売数量の増加に頼らない利益成長が期待できます。
一方、加工食品は原材料費や人件費の影響を受けるため、商品の価格改定と生産効率化を継続できるかが重要です。
食肉工場の自動化が収益力を左右する
食肉の加工には、切断、計量、包装、検品、出荷など多くの工程があります。
日本では労働人口の減少が進んでいるため、食品工場でも人手を確保することが難しくなります。
そこで、
・自動カット設備
・自動計量・包装機
・画像認識による検品
・在庫・需給管理の高度化
・物流拠点の集約
などが重要になります。
生産量を大きく増やさなくても、人手と廃棄を減らせれば利益率を改善できます。
今後の食肉企業では、海外売上高の拡大と工場の生産性向上の両方が企業価値を左右すると考えています。
今後成長が期待できる分野
食肉業界で今後特に成長を期待したいのは、
・和牛の海外輸出
・海外での牛肉調達・加工・販売
・高付加価値のハム・ソーセージ
・調理済み・冷凍食品
・高たんぱく食品
・外食向け加工食肉
・食肉工場の自動化
・食品ロス削減と物流効率化
などです。
特に私は、海外食肉事業+高付加価値加工食品+生産効率化の3分野に注目しています。
国内の食肉消費量が大きく増えなくても、これらを強化できる企業には利益成長の余地があります。
今後低迷が予想される分野
国内の販売数量増加だけに依存する事業
人口減少が進む中、国内で食肉の販売数量を大幅に増やし続けることは難しいでしょう。
海外販路や高付加価値商品を持たない企業には、成長の限界があります。
価格転嫁できない低価格加工品
原材料費、人件費、物流費が上昇しても、販売価格を引き上げられなければ利益が圧迫されます。
価格だけで競争する商品は、ブランド商品との差が広がる可能性があります。
一つの調達先・生産拠点に依存する事業
家畜の疾病、異常気象、輸入規制などが発生すると、供給に影響が出る可能性があります。
複数の調達先や生産拠点を確保できる企業の方が、安定した事業運営を行いやすいでしょう。
海外投資を収益化できない事業
海外需要が伸びても、工場建設や企業買収に多額の資金を投じた結果、利益が残らなければ企業価値は高まりません。
海外売上高の伸びだけでなく、利益率、投資回収、ROICなどを確認する必要があります。
今後有望な銘柄
① 日本ハム(2282)
日本ハムは、国内の食肉販売と加工食品に加え、海外の牛肉事業を持つ総合食肉企業です。
最大の強みは、食肉の調達・販売から加工食品まで、幅広い事業を展開していることです。
国内ではシャウエッセンなどのブランド商品を持ち、海外では豪州牛肉や北米の加工食品などを展開しています。
2027年3月期第1四半期は、
売上高3,849億円
事業利益194億円
となり、前年同期から増収増益となりました。
2027年3月期の年間配当予想は180円です。
2026年9月18日の終値は6,078円。
予想PER15.05倍、PBR1.07倍、予想配当利回り2.96%です。
年初来高値7,420円からは約18%下落しています。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
国内の安定した食肉販売基盤を持ちながら、豪州牛肉や北米の加工食品など、海外の成長市場も取り込める点に注目しています。
今後は海外事業の利益成長と加工食品の収益性改善が、株価評価を左右すると考えています。
② 伊藤ハム米久ホールディングス(2296)
伊藤ハム米久ホールディングスで特に注目したいのが、海外牛肉事業の拡大です。
同社は国内でハム・ソーセージや食肉を販売するだけでなく、ニュージーランドのANZCO Foodsを通じて海外事業を展開しています。
2026年6月にはGreenlea Groupを約760億円で取得する契約を発表しました。
取得が完了すれば、海外の食肉調達・加工・販売能力が大きく拡大する見込みです。
長期経営戦略では、2035年に、
経常利益500億円
ROE8.0%以上
ROIC6.8%以上
を目標としています。
2027年3月期の年間配当予想は155円です。
2026年9月18日の終値は4,975円。
予想PER15.26倍、PBR0.96倍、予想配当利回り3.12%です。
年初来高値6,480円からは約23%下落しています。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
ニュージーランド事業の拡大によって、国内人口減少の影響を受けにくい事業構造へ変化する可能性があります。
ただし、大型買収に伴う資金負担や海外牛肉市況の変動には注意が必要です。
買収後の利益貢献が明確になれば、企業評価が変わる可能性があります。
③ エスフーズ(2292)
エスフーズは、今回の4社の中でも和牛の海外輸出に注目したい企業です。
国内では国産牛を中心とした食肉の調達・販売に強みがあり、海外では米国の牛肉事業などを展開しています。
また、「こてっちゃん」をはじめとする加工食品の製造・販売も行っています。
同社の特徴は、
・国内外の食肉調達
・和牛輸出
・米国牛肉事業
・加工食品
・小売・外食
まで幅広く展開していることです。
米国ではオーロラビーフの供給能力増強に向けた新工場への投資も進めています。
一方、海外牛肉事業では市況や投資の収益化が課題となっています。
2027年2月期の年間配当予想は110円です。
2026年9月18日の終値は2,744円。
予想PER13.37倍、PBR0.66倍、予想配当利回り4.01%です。
年初来高値3,285円からは約16%下落しています。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★☆☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★☆
和牛輸出という成長テーマを持ちながら、PBRは0.7倍を下回り、配当利回りは4%前後です。
米国事業の収益改善が進めば、利益成長と低PBRの見直しを期待できる可能性があります。
一方、海外市況の影響を受けやすいため、現在の低い株価評価だけでなく、海外事業が実際に利益を生み出しているかを確認したい銘柄です。
④ プリマハム(2281)
プリマハムは、国内のハム・ソーセージを中心とした加工食品に強みを持つ企業です。
「香薫」などのブランド商品に加え、食肉、惣菜、業務用加工食品などを展開しています。
今後は、
・高付加価値の加工食品
・調理済み食品
・惣菜
・業務用商品
・工場の生産効率化
などが成長のポイントになります。
国内の食肉消費量が大きく増えなくても、商品構成の改善と価格転嫁によって利益を伸ばせる可能性があります。
2027年3月期の年間配当予想は80円です。
2026年9月18日の終値は2,407円。
予想PER16.13倍、PBR1.00倍、予想配当利回り3.32%です。
年初来高値2,929円からは約18%下落しています。
成長性:★★★☆☆
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★☆
加工食品のブランド力と安定した国内需要を持つ企業です。
一方、海外食肉事業を成長させようとしている上位3社と比べると、今後の成長は国内事業の収益改善に左右されやすいと考えています。
高付加価値商品の販売比率を高め、原材料費や人件費の上昇を吸収できるかが重要になります。
まとめ
食肉業界は、国内人口が減少する中で販売数量を大幅に増やし続けることが難しい成熟産業です。
しかし、食肉は日々の食生活に必要であり、国内需要が突然なくなることは考えにくいでしょう。
さらに、
・和牛の海外輸出
・海外での牛肉調達・加工・販売
・高付加価値の加工食品
・調理済み・冷凍食品
・工場の自動化
・物流・調達の効率化
などには成長余地があります。
特に、海外で事業を拡大できる企業は、日本の人口減少とは異なる需要を取り込めます。
そのため、食肉業界の将来性を5段階で評価するなら「4」です。
ただし、今後5〜10年では業界全体が急成長するというより、海外市場を取り込める企業と、国内の販売数量だけに依存する企業との差が広がると考えています。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と現在の株価からの上昇余地を重視して順位付けするなら、1位 日本ハム(2282)、2位 伊藤ハム米久ホールディングス(2296)、3位 エスフーズ(2292)、4位 プリマハム(2281)と考えています。
本命は日本ハムです。
国内の食肉・加工食品事業に加え、豪州牛肉や北米の加工食品など、複数の成長市場を持っています。
2027年3月期第1四半期も増収増益となっており、今後は海外事業の利益成長と加工食品の収益性改善に注目しています。
対抗は伊藤ハム米久ホールディングスです。
ニュージーランドの食肉事業拡大は、今後の企業規模を大きく変える可能性があります。Greenleaの取得が完了し、ANZCOとの相乗効果が利益に表れてくれば、海外事業の成長が企業評価に反映される余地があると考えています。
エスフーズは和牛輸出と米国牛肉事業が特徴です。海外投資の収益化が、今後の利益成長と株価評価の見直しを左右するでしょう。
プリマハムは国内加工食品のブランド力を持っています。高付加価値商品と調理済み食品を増やし、原材料費上昇を吸収しながら利益率を改善できるかが注目点です。
食肉業界は今後、「国内で肉を大量に販売する産業」から、「海外の食肉需要を取り込み、加工・調理・物流まで含めて食品の付加価値を高める総合たんぱく質産業」へ変化していくと考えています。
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