水産・農林業界は今後どうなる?
水産・農林業というと、日本国内では人口減少や農業従事者の高齢化などから、縮小産業という印象を持つ人も多いと思います。
実際、日本国内だけを見れば、
・魚介類消費の減少
・農業人口の減少
・漁業従事者の減少
・気候変動
・燃料・飼料価格上昇
など、多くの課題があります。
しかし世界全体で見ると状況は異なります。
OECDとFAOは、2034年までの10年間で世界の農業・水産物需要が約13%増加すると予測しています。
特に人口増加や所得上昇が続くアジア、アフリカなどでは、魚介類や高品質な農産物への需要拡大が期待できます。
私は、今後5〜10年を見ると、水産・農林業界は「中立からやや強気」で見ています。
ただし日本国内の一次産業そのものが大きく成長するというより、
養殖、海外市場、高付加価値食品、種苗などへ展開できる企業が伸びる業界
になると考えています。
天然魚中心から養殖中心へ変わっていく
今後の水産業を見るうえで最も重要なのが養殖です。
世界人口が増えたからといって、天然魚を無制限に獲ることはできません。
水産資源には限りがあり、乱獲を続ければ漁獲量そのものが減少します。
そのため世界の水産物生産では、
天然魚を獲る漁業から、魚を育てる養殖へ
比重が移っています。
OECD・FAOによると、世界の水産物生産量は2034年に約2億1,200万トンまで増加すると予測されています。
その増加分の85%以上を養殖が占め、養殖生産量そのものも今後10年間で約20%増える見通しです。
これは日本の水産企業にとって大きな成長テーマだと考えています。
サーモン養殖は特に大きな市場になる
養殖の中でも特に注目したいのがサーモンです。
サーモンは、
・北米
・欧州
・日本
・アジア
など世界的に需要があり、寿司や刺身だけでなく幅広い料理で利用されています。
一方、天然サーモンの漁獲量には限界があります。
そのためサーモン市場の成長を支える中心は養殖になります。
ニッスイは国内サーモンの生産量を現在の約3,000トンから2030年に1万トンへ、南米サーモンについても約3万トンから5万トンへ拡大する計画です。
魚を仕入れて販売するだけでなく、
自分たちで魚を育てて販売する
ことで、資源確保と利益成長の両方を狙えるようになります。
養殖は簡単な成長産業ではない
ただし養殖なら何でも利益が出るわけではありません。
最大の問題の一つが気候変動です。
海水温上昇によって、
・魚の成長悪化
・病気
・大量死
・赤潮
・適地の変化
などが発生する可能性があります。
さらに、
・飼料価格
・魚粉価格
・燃料価格
なども利益を左右します。
そのため今後は単純に養殖数量を増やすだけでなく、
・耐病性の高い種苗
・給餌の自動化
・AIによる生育管理
・陸上養殖
・複数地域への養殖場分散
など、養殖を工業化できる企業が強くなると考えています。
世界では魚介類需要が増えていく
日本では若い世代を中心に魚離れが指摘されています。
しかし世界全体では魚介類需要は増加する見通しです。
2034年までの世界の水産物の食用需要は、2022〜2024年平均と比較して約13%増えると予測されています。
特にアジアが増加分の大部分を占めます。
そのため日本の水産会社を見る場合、
「日本人が魚を食べるか」
だけで判断するのは適切ではありません。
むしろ、
世界で魚を仕入れ、加工し、世界で販売できるか
が重要になります。
水産会社は食品会社へ変わっている
ニッスイやUmiosなどの大手水産会社は、すでに単純な漁業会社ではありません。
事業には、
・水産資源
・養殖
・冷凍食品
・加工食品
・海外食品
・物流
・ファインケミカル
などが含まれています。
水産物そのものは漁獲量や相場によって利益が変動します。
一方、加工食品では、
魚
↓
加工
↓
冷凍食品
↓
ブランド商品
と付加価値を高めることで、利益率を改善できます。
そのため今後の水産大手では、
「魚を獲る会社」から「世界的な食品会社」へ変われるか
が重要だと考えています。
冷凍食品は人手不足とも相性が良い
冷凍食品にも長期的な成長余地があります。
日本では、
・共働き世帯増加
・単身世帯増加
・外食産業の人手不足
・食品ロス削減
などを背景に、調理の手間を減らせる食品への需要があります。
海外でも外食や量販店向けの冷凍食品市場があります。
ニッスイは北米・欧州の食品工場の生産能力を増強しており、2027年3月期には養殖、海外食品、国内食品新工場、物流などを中心に約836億円の設備投資を計画しています。
水産資源だけに依存せず、加工食品を増やすことが利益の安定化にもつながります。
農業では「種」が重要になる
農林業側で特に注目したいのが種苗です。
世界人口が増える一方、農業では、
・農地不足
・水不足
・気候変動
・高温
・干ばつ
・病害虫
などの問題が深刻になります。
単純に農地を増やすだけでは、世界の食料需要を満たすことが難しくなります。
そこで重要になるのが、
同じ面積からより多く、安定して収穫できる品種
です。
種苗会社は、
・耐暑性
・耐病性
・収量
・味
・保存性
などを改善した新品種を開発します。
気候変動が進むほど、高性能な種の価値は高くなる可能性があります。
種苗は世界人口増加の恩恵を受けやすい
サカタのタネは、日本企業ですが事業そのものは世界規模です。
野菜や花の種子を世界各地で販売しています。
2026年7月に発表した長期経営計画「PASSION2035」では、2026年5月期の売上高1,043億円から、2036年5月期に2,000億円を目指しています。
営業利益についても131億円から350億円へ拡大する計画です。
つまり国内農業市場が縮小しても、
世界の農業生産拡大を取り込む
ことができます。
私は農林分野では、農作物そのものよりも種苗や農業技術の方が長期成長を期待しやすいと考えています。
食料安全保障も重要なテーマになる
世界では地政学リスクが高まり、食料を安定的に確保する重要性が再認識されています。
食料は半導体やエネルギーと同じように、輸入できなくなると国民生活に直接影響します。
日本は多くの食品や飼料を海外から輸入しています。
そのため今後は、
・国内養殖
・農業生産性向上
・種苗
・飼料効率改善
・食品備蓄
・水産資源確保
などが重要になります。
水産・農林業は爆発的なテーマ株になりにくい一方、国が必要とする産業であること自体が長期的な強みになります。
ファインケミカルも水産会社の成長事業
水産会社の意外な事業として注目したいのがファインケミカルです。
魚には、
・EPA
・DHA
・健康食品原料
・医薬品原料
などとして利用できる成分があります。
ニッスイは水産資源を食品だけでなくファインケミカルへ展開しています。
人口高齢化や健康意識の高まりを考えると、
水産物を高付加価値な健康・医療材料へ変える
ことも、水産企業の利益率を高める方法になります。
今後成長が期待できる分野
水産・農林業界で今後特に成長を期待したいのは、
・サーモン養殖
・ブリなど高付加価値魚養殖
・陸上養殖
・海外水産事業
・冷凍食品
・高付加価値加工食品
・魚由来ファインケミカル
・野菜・花の種苗
・耐暑・耐病性品種
・スマート養殖・スマート農業
などです。
特に私は、
養殖+海外食品+種苗
の3分野に注目しています。
国内人口減少の影響を受けにくく、世界の人口増加や食料需要拡大を取り込めるからです。
今後低迷が予想される分野
天然魚の漁獲量だけに依存する事業
天然水産資源には限界があります。
気候変動や資源管理強化によって、漁獲量が減少する可能性もあります。
今後は天然魚を大量に獲る企業より、養殖や加工などへ事業を広げる企業の方が有利になると考えています。
国内市場だけに依存する水産会社
日本では人口減少に加え、魚介類消費量そのものも長期的には伸びにくい状況です。
国内販売だけでは大幅な成長が難しく、北米、欧州、アジアなど海外市場を持つ企業との差が広がるでしょう。
小規模で効率化が進まない農業
農業従事者の高齢化や人手不足が進む中、小規模で人手に依存する農業はさらに厳しくなります。
今後は、
・大型化
・自動化
・AI
・ドローン
・高性能種苗
などを使って生産性を高められる農業へ移行する必要があります。
付加価値の低い水産物販売
魚を仕入れてそのまま販売するだけでは、市況や為替の影響を受けやすくなります。
養殖、加工食品、ブランド化、ファインケミカルなどへ展開できる企業の方が、安定して利益を確保しやすくなると考えています。
今後有望な銘柄
① ニッスイ(1332)
水産・農林業界で本命として最も注目したいのがニッスイです。
最大の理由は、
水産+養殖+食品+海外+ファインケミカル
という複数の成長分野を持っていることです。
長期ビジョンでは2030年に、
売上高1兆円以上、営業利益500億円以上、海外所在地売上高比率50%
を目標としています。
特に今後大きく伸ばそうとしているのが養殖です。
国内サーモンを3,000トンから1万トン、南米サーモンを3万トンから5万トンへ拡大する計画で、2030年度には養殖事業だけで売上高1,000億円、営業利益100億円を目指しています。
海外食品についても北米・欧州で生産能力を増強します。
2026年9月4日の終値は1,229.5円。
予想PER12.86倍、PBR1.22倍、予想配当利回り2.60%です。
3月の年初来高値1,570円からは調整しています。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
世界の養殖市場拡大を取り込みながら、冷凍食品やファインケミカルまで持っている点が魅力です。
株価指標も極端に高くないため、今回の4社では成長性と現在の株価水準のバランスを最も高く評価しています。
② サカタのタネ(1377)
農林業側で最も注目したいのがサカタのタネです。
最大の魅力は、
日本の農業市場ではなく、世界の食料生産そのものを成長市場にできること
です。
種子は農業生産のスタート地点です。
気候変動によって高温、干ばつ、病害虫などが増えるほど、
・高温に強い
・病気に強い
・収量が多い
・品質が安定する
といった品種への需要は高まります。
2026年に発表した「PASSION2035」では、
2026年5月期
売上高1,043億円
営業利益131億円
から、
2036年5月期
売上高2,000億円
営業利益350億円
を目指しています。
2031年までに約500億円の成長投資も予定しています。
2026年9月4日の終値は4,345円。
予想PER18.36倍、PBR1.03倍、予想配当利回り2.07%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
短期的なテーマ性では水産株に劣りますが、今後10年という期間で考えると非常に魅力があります。
食料不足や気候変動が深刻になるほど、「良い種を作れる会社」の価値は高くなると考えています。
③ Umios(1333)
旧マルハニチロのUmiosも注目したい企業です。
同社も水産物を仕入れて販売するだけではなく、
・漁業
・養殖
・水産流通
・加工食品
・海外食品
・ペットフード
・DHAなどの油脂
へ展開しています。
中期経営計画では、2028年3月期に営業利益400億円、ROIC5%を目標としています。
さらに長期的には、
海外経常利益比率70%以上、ROIC7%以上
を目指しています。
特に面白いのがペットフードです。
2028年3月期にはペットフード事業だけで営業利益約100億円、ROIC約18%を見込んでおり、水産資源を高収益商品へ変える事業として期待できます。
2026年9月4日の終値は1,280円。
予想PER12.86倍、PBR0.78倍、予想配当利回り3.52%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★☆
PBR1倍を下回り、配当利回りも3%台半ばあります。
構造改革と海外事業拡大によってROICが改善すれば、利益成長だけでなく低PBR修正も期待できる銘柄です。
④ 極洋(1301)
極洋は今回の4社では最も割安株として注目したい企業です。
水産商事を中心に、
・漁業
・養殖
・冷凍食品
・加工食品
・海外事業
などを展開しています。
中期経営計画「Gear Up Kyokuyo 2027」では、
人財・組織、4つの事業、グローバル化
を軸に事業基盤を強化しています。
大手2社と比べると企業規模は小さいですが、その分業績成長が株価へ与える影響が大きくなる可能性があります。
2026年9月4日の終値は4,665円。
予想PER7.70倍、PBR0.70倍、予想配当利回り3.43%です。
今回の4社では最も低い株価評価です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★★
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★☆
高成長株というより、
水産需要+海外展開+低PER・低PBR
を狙うタイプです。
PBR0.7倍、PER7倍台という評価を考えると、利益成長が続けば株価評価の見直し余地もあると考えています。
まとめ
水産・農林業界は、日本国内だけを見ると必ずしも高成長産業ではありません。
人口減少、魚介類消費の減少、農業・漁業従事者の高齢化など、長期的な逆風があります。
さらに気候変動によって、
・海水温上昇
・漁場変化
・赤潮
・干ばつ
・高温障害
・病害虫
などのリスクも大きくなります。
一方、世界を見ると農業・水産物需要は今後も増加すると予想されています。
特に水産業では養殖が世界の生産増加を牽引し、農業では限られた農地から高い収穫量を得るための種苗・技術の重要性が高まります。
そのため、水産・農林業界の将来性を5段階で評価するなら「4」です。
今後5〜10年では、日本国内の一次産業そのものよりも、
養殖、海外食品、種苗、高付加価値食品へ展開できる企業
を選ぶことが重要になると考えています。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と株価上昇余地を重視して順位付けするなら、1位 ニッスイ(1332)、2位 サカタのタネ(1377)、3位 Umios(1333)、4位 極洋(1301)と考えています。
本命はニッスイです。
養殖を2030年へ向けて大きく拡大する一方、北米・欧州食品、国内冷凍食品、ファインケミカルなど複数の成長事業を持っています。
予想PER12倍台という現在の株価水準まで考えると、成長性と割安感のバランスが最も良いと判断しました。
対抗はサカタのタネです。
水産企業とは全く違う成長ストーリーですが、世界人口増加、気候変動、食料安全保障という非常に長いテーマを持っています。
2036年までに売上高を約2倍、営業利益を約2.7倍へ増やす目標を掲げており、計画通り進めば現在とは利益規模の違う会社になる可能性があります。
UmiosはPBR0.8倍を下回る株価が魅力です。海外比率拡大、ペットフードなど高収益事業の成長によってROICが改善すれば、低PBR修正も期待できます。
極洋は企業規模では3社より小さいものの、予想PER7倍台、PBR0.7倍という割安さがあります。水産市況が良好で利益成長が続けば、評価が大きく変わる可能性があります。
水産・農林業界は今後、「自然から魚や農作物を取る産業」から、「養殖・種苗・技術によって限られた資源から安定して食料を生産し、世界へ供給する産業」へ変わっていくと考えています。
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