保険業界は今後どうなる?
保険業界は大きく、
・損害保険
・生命保険
に分けられます。
国内だけを見ると、日本は人口減少社会に入っているため、生命保険の契約者数や自動車保険の対象となる自動車台数などが長期的に大きく増えるとは考えにくいでしょう。
そのため以前は、保険業界は典型的な成熟産業と考えられていました。
しかし現在の大手保険会社を見ると、状況はかなり変わっています。
海外保険会社の買収、保険料率の適正化、資産運用収益の改善、政策保有株式の売却、資本効率改善などによって、利益を伸ばす余地が生まれているからです。
私は、今後5〜10年を見ると、保険業界は比較的有望な業界だと考えています。
特に、
海外展開+資本効率改善+株主還元
を進められる大手保険グループには注目しています。
損害保険は「売上拡大」より「収益性改善」へ
国内損害保険市場そのものが急成長する可能性は高くありません。
しかし今後の損保会社では、保険契約数を増やすことより、
1件の契約から適正な利益を得られるか
が重要になります。
自然災害の増加、修理費、人件費、部品価格などの上昇によって、保険会社が負担する保険金も増えています。
そのため火災保険や自動車保険では、リスクに応じた保険料へ見直す動きが続くと考えています。
以前のようにシェアを取るために安い保険料で契約を増やすより、
適正な価格で保険を引き受ける
という方向へ変わることは、大手損保の収益性改善につながる可能性があります。
自然災害は保険会社にとってリスクでもあり市場でもある
地震、台風、豪雨、山火事などの自然災害は保険会社にとって大きなリスクです。
大規模災害が起きれば巨額の保険金支払いが発生します。
さらに世界的な自然災害増加によって、再保険料が上昇する可能性もあります。
一方で、災害リスクが高まるほど保険の必要性そのものも高くなります。
今後は単純に事故が起きた後に保険金を支払うだけではなく、
・災害予測
・事故防止
・企業BCP
・サイバー対策
・リスクコンサルティング
など、
「事故が起きる前にリスクを減らすサービス」
も保険会社の重要な事業になると考えています。
サイバー保険は長期的な成長分野
企業活動がデジタル化するほど、サイバー攻撃による被害も大きくなります。
例えば、
・ランサムウェア
・情報漏えい
・システム停止
・取引先への損害
・不正送金
などです。
AIが普及すると攻撃側もAIを利用する可能性があり、企業のサイバーリスクはさらに複雑になります。
そのため今後は、自動車保険や火災保険と同じように、
企業にとってサイバー保険が当たり前になる
可能性があります。
特に世界的な企業保険やスペシャルティ保険に強い保険会社には大きな成長機会があります。
海外保険が最大の成長分野になる
日本の保険会社が今後成長するうえで最も重要なのが海外です。
国内人口が減少しても、世界全体では人口や所得が増加する地域があります。
さらに米国などでは保険料水準そのものが大きく、専門性の高いスペシャルティ保険市場も発達しています。
東京海上ホールディングスでは、2026年度予想の利益構成を見ると海外事業が約67%を占めています。つまり、すでに「日本の損害保険会社」というより、世界で保険事業を行うグローバル企業になっています。
今後の日本の保険会社では、
国内保険
↓
海外保険
↓
世界のスペシャルティ保険
へ成長市場を広げられる企業が有利になると考えています。
SOMPOは海外保険をさらに拡大
海外展開で特に大きな動きがあったのがSOMPOホールディングスです。
2026年2月に、約35億ドルでAspen Insurance Holdingsの買収を完了しました。
Aspenはスペシャルティ保険や再保険に強みを持つ企業で、今回の買収によってSOMPOは海外保険事業をさらに拡大しています。
2026年度の調整後連結利益予想5000億円のうち、海外保険は2800億円を占める計画です。国内損保の1800億円をすでに上回っています。
つまりSOMPOについても、国内損保会社というより、
世界的な損害保険グループ
として見た方がよい段階に入っています。
政策保有株式の売却が大きな変化を生む
日本の損保会社は長年、取引先企業との関係維持などを目的として大量の株式を保有してきました。
しかし現在は政策保有株式の縮減が急速に進んでいます。
金融庁も損害保険市場の公正な競争を促す観点から政策保有株式の縮減を求めています。
保険会社にとってこれは大きな変化です。
株式を売却すると、
政策株式減少
↓
株価変動リスク減少
↓
必要資本減少
↓
余剰資本増加
↓
M&A・成長投資・自社株買い
という流れを作ることができます。
つまり政策保有株式の縮減は、単なる資産売却ではなく、
保険会社のROEを高めるための資本改革
でもあります。
MS&ADは国内損保を統合する
MS&ADインシュアランスグループでは、もう一つ大きな構造改革が進んでいます。
三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、2027年4月に合併し、「三井住友海上あいおい損害保険」となる予定です。
これまで国内に2つの大きな損保会社を持っていましたが、1社へ統合することで、
・システム統合
・人員配置最適化
・商品統合
・営業効率化
・ガバナンス強化
などが期待できます。
今後数年間は、国内損保再編によるコスト削減と利益率改善がMS&ADの重要なテーマになります。
生命保険には金利正常化が追い風になる
生命保険会社では、金利が非常に重要です。
生命保険会社は契約者から長期間保険料を預かり、その資金を国債などで運用します。
日本では長期間にわたって超低金利が続いたため、安全な債券へ投資しても十分な運用利回りを得ることが難しい環境でした。
しかし日本銀行は2026年7月の展望でも、経済・物価情勢に応じて政策金利を引き上げていく方針を示しています。
金利が正常化すれば、新しく購入する国債などの運用利回りが高くなります。
長期的には生命保険会社の資産運用環境改善につながる可能性があります。
ただし金利上昇がすべて追い風とは限らない
生命保険会社にとって金利上昇は基本的にはプラス要因ですが、短期的には注意も必要です。
金利が急上昇すると、以前購入した低金利の債券価格は下落します。
そのため保有債券に含み損が発生することがあります。
また契約者がより高金利の商品へ移ることで、既存契約の解約が増える可能性もあります。
そのため生命保険株を見る場合は、
「金利が上がれば必ず儲かる」
という単純な見方ではなく、資産と負債の管理能力を見る必要があります。
高齢化は生命保険会社の新しい市場になる
人口は減少しても高齢者は増えます。
そのため従来型の死亡保障保険だけではなく、
・年金
・資産形成
・相続
・介護
・医療
・老後資金
などの需要は増える可能性があります。
日本銀行も生命保険会社について、長寿化によって退職後の資金ニーズが高まり、商品や資産運用の多様化が進んでいると指摘しています。
今後の生命保険会社は、
「死亡したときに保険金を払う会社」から「人生100年時代の資産形成を支える会社」
へ変わっていく必要があります。
AIで保険会社のコスト構造も変わる
保険業界は大量の事務作業を抱える業界です。
例えば、
・契約審査
・事故受付
・保険金査定
・書類処理
・問い合わせ対応
・不正請求検出
などがあります。
これらはAIとの相性が非常に良い分野です。
今後生成AIや画像認識を活用すれば、
事故写真
↓
AIが損害判定
↓
保険金算定
↓
自動支払い
といった仕組みも広がります。
保険会社は売上を増やすだけでなく、
AIによる業務効率化で利益率を高められる業界
でもあると考えています。
今後成長が期待できる分野
保険業界で今後特に成長を期待したいのは、
・海外損害保険
・スペシャルティ保険
・再保険
・サイバー保険
・企業向けリスクコンサルティング
・資産運用
・年金・老後資金
・医療・介護保険
・AIによる保険業務効率化
などです。
私は特に、
海外保険+資本効率改善+株主還元
の3つに注目しています。
国内保険市場が成熟していても、この3つを進めることができればEPSを長期的に増やせるからです。
今後低迷が予想される分野
国内死亡保障だけに依存する生命保険
人口減少や少子化によって、従来型の死亡保障保険だけで契約数を増やすことは難しくなります。
資産形成、年金、医療、介護などへ商品を広げる必要があります。
価格競争だけで契約を取る損害保険
保険料を安くしてシェアを取っても、大規模災害や修理費上昇によって保険金支払いが増えれば利益が残りません。
今後は適正なリスク評価と価格設定ができる会社が有利になります。
政策保有株式や企業関係に依存する営業
金融庁は政策保有株式の縮減や企業向け損保市場の競争適正化を進めています。
今後は「株を持っているから保険契約をもらえる」という旧来型の取引慣行ではなく、商品やサービスそのものの競争力が必要になります。
人手依存型の保険販売
人口減少によって営業職員や代理店従業員の確保も難しくなります。
オンライン販売、AI、データ分析などを活用して、少ない人員で契約を管理できる会社との差が広がるでしょう。
今後有望な銘柄
① 東京海上ホールディングス(8766)
保険業界で本命として最も注目したいのが東京海上ホールディングスです。
最大の魅力は、国内損害保険だけに依存していないことです。
現在では海外保険事業が利益成長を大きく牽引しており、2026年度予想ではグループ利益の約3分の2を海外事業が占めています。
2026年度は修正純利益9500億円、修正ROE13.0%を予想しています。
株主還元も非常に強く、2026年度は1株245円の年間配当を予想しています。
2019年度の63円から、2026年度予想245円まで大幅に増加しており、15期連続増配となる見込みです。
2026年9月4日の終値は7,976円。
予想PERは約18倍、PBRは約1.9倍で、予想配当利回りは約3.1%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★☆☆
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★★
保険会社としての収益力、海外展開、資本効率、株主還元のバランスでは、日本の保険株で最も完成度が高い企業だと考えています。
株価は以前ほど割安ではありませんが、今後5〜10年という期間なら中心銘柄として評価したいところです。
② SOMPOホールディングス(8630)
2番目に注目したいのがSOMPOホールディングスです。
最大の材料は海外保険です。
2026年2月にAspen Insurance Holdingsを約35億ドルで買収しました。
Aspenはスペシャルティ保険、再保険、Lloyd’s市場などに強みを持ち、SOMPOは買収によって世界的な保険・再保険事業をさらに拡大しました。
買収発表時には、Aspenによって調整後連結ROEを約1ポイント押し上げ、EPS成長率を加速させる効果が見込まれていました。
SOMPOは2026年度に修正連結ROE13〜15%、修正EPS成長率12%超を目標としています。
2026年度の調整後連結利益予想は5000億円で、そのうち海外保険が2800億円を占めます。
2026年9月4日の終値は6,856円。
予想PER約12.5倍、PBR約1.15倍、年間配当予想は200円で、予想配当利回りは約2.9%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★★
東京海上より株価評価が低いうえ、Aspen買収による海外利益拡大という材料があります。
買収統合が順調に進めば、今回の4社では東京海上以上の株価上昇率になる可能性もあると考えています。
③ MS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)
MS&ADで最も注目したいのは国内損保再編です。
三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は2027年4月に合併する予定です。
2社体制から1社体制へ移行することで、国内損保事業の効率化と収益性改善が期待できます。
さらに政策保有株式についても2029年度末までにゼロとする方針を示しています。
政策保有株式を削減しながら資本効率を高め、海外など成長分野へ資本を振り向ける戦略です。
2026年9月4日の終値は5,240円。
予想PER約17.9倍、PBR約1.13倍、年間配当予想170円、予想配当利回り約3.2%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★☆
2027年の損保統合によってコスト構造が大きく改善すれば、利益とROEが一段上がる可能性があります。
一方で大規模な会社統合にはシステムや組織統合リスクもあるため、現時点では東京海上とSOMPOを一段上に評価しています。
④ 第一ライフグループ(8750)
生命保険からは第一ライフグループを選びます。
第一生命ホールディングスは2026年4月に「第一ライフグループ」へ商号を変更しました。
同社が目指しているのは、国内の生命保険だけに依存しない保険グループです。
米国のProtective、オーストラリアのTALなど海外保険事業を拡大しており、資産運用や非保険事業も強化しています。
海外事業については、2026年度までにグループ修正利益に占める割合を40%へ引き上げる方針を示してきました。
2026年3月期のグループ修正利益は5515億円と過去最高を更新し、修正ROEも12.7%となりました。
2027年3月期は修正利益5600億円程度と4期連続の最高益を予想しています。
株主還元も強化され、2027年3月期の年間配当は72円を予想しています。前期54.5円から約32%の増配です。
2026年9月4日の終値は1,877.5円。
PER約15.7倍、PBR約1.6倍で、予想配当利回りは約3.8%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★☆
国内金利正常化、海外保険、資産運用、株主還元という複数の追い風があります。
損保3社ほど世界的なスペシャルティ保険の成長を直接取り込むわけではありませんが、生命保険株の中では最も注目したい企業の一つです。
まとめ
保険業界は、日本国内だけを見れば典型的な成熟産業です。
人口減少によって、従来型の生命保険や自動車保険などの契約数量が大幅に増える可能性は高くありません。
しかし現在の大手保険会社は、
・海外保険
・スペシャルティ保険
・保険料率の適正化
・政策保有株式縮減
・ROE改善
・自社株買い
・増配
・AIによる業務効率化
・金利正常化による運用環境改善
などによって、以前とはかなり違う成長構造になっています。
特に損害保険大手については、政策保有株式を大量に抱える国内金融会社から、世界で保険リスクを引き受ける高ROE企業へ変化している途中と考えています。
そのため、保険業界の将来性を5段階で評価するなら「4」です。
今後5〜10年では比較的有望な業界だと考えています。
ただし国内市場だけに依存する企業より、海外事業、資本効率、株主還元で先行する大手企業の方が有利になるでしょう。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と株価上昇余地を重視して順位付けするなら、1位 東京海上ホールディングス(8766)、2位 SOMPOホールディングス(8630)、3位 MS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)、4位 第一ライフグループ(8750)と考えています。
本命は東京海上ホールディングスです。
海外保険が利益の中心となっており、収益力、資本効率、増配実績のどれを見ても国内保険会社ではトップクラスです。
株価の割安感は以前より小さくなっていますが、5〜10年間利益を伸ばし続けられる可能性では最も高く評価しています。
対抗はSOMPOホールディングスです。
Aspen買収によって海外スペシャルティ保険・再保険事業が大きく拡大しました。
東京海上より株価指標が低いため、買収効果が予定通り利益へ表れれば株価の上昇余地はかなり大きいと考えています。
MS&ADは2027年の三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保の合併が最大の材料です。統合効果によって国内事業のコスト削減とROE改善が進めば、評価が一段上がる可能性があります。
第一ライフグループは、国内金利の正常化、海外保険、資産運用、増配という複数の追い風があります。特に配当を受け取りながら中長期の利益成長を狙う銘柄として魅力があります。
保険業界は今後、「国内で保険契約を増やす産業」から、「世界のさまざまなリスクを引き受け、資本を効率的に運用し、その利益を株主へ還元する金融サービス産業」へ変化していくと考えています。
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