繊維製品業界は今後どうなる?
繊維製品業界というと、衣料品や糸、生地などを思い浮かべる人が多いと思います。
しかし現在の大手繊維企業を見ると、事業内容はかなり変わっています。
炭素繊維、半導体材料、研磨材、高機能フィルム、医療材料、水処理膜など、繊維技術から発展した高機能素材が重要な収益源になっています。
一方で、国内の一般衣料や汎用繊維については、人口減少、低価格輸入品との競争、原材料費や人件費の上昇などが続くため、大きな成長は期待しにくいでしょう。
私は繊維製品業界について、今後5〜10年は「中立からやや強気」で見ています。
業界全体が成長するというより、従来型の衣料・汎用繊維から、高機能素材や海外市場へ転換できる企業が伸びる業界になると考えています。
「繊維会社」ではなく「高機能素材会社」へ
今後の繊維製品業界を見るうえで、最も重要なのが事業構造の変化です。
例えば東レは現在、
・繊維
・炭素繊維複合材料
・電子情報材料
・樹脂・ケミカル
・フィルム
・水処理
・医薬・医療
など、幅広い事業を展開しています。
2026年度から始まった中期経営プログラム「IGNITION 2028」では、AIデータセンターやAI半導体関連も重点分野として位置付け、2026〜2028年度に4,000〜5,000億円の設備投資を計画しています。
つまり今後の繊維株は、
「衣料品が何枚売れるか」
だけを見る業界ではありません。
むしろ、
「繊維技術を使って、どの成長産業へ進出できるか」
を見ることが重要になります。
半導体・AI関連が新しい成長分野になる
繊維製品とAIや半導体は、一見すると関係が薄そうに見えます。
しかし実際にはかなり関係があります。
半導体の製造工程では、研磨材、フィルム、樹脂、特殊材料などさまざまな高機能材料が必要になります。
例えば富士紡ホールディングスは、現在では売上高の8割超が非繊維事業となっています。
中でも半導体製造工程などで使用される精密研磨材は、同社の中核事業です。
2027年3月期第1四半期も、研磨材・化学工業品事業の好調によって売上高は前年同期比17.0%増、営業利益は28.2%増となりました。
つまり企業名や業種分類は「繊維製品」であっても、実際の株価を動かすテーマはAI・半導体という企業もあります。
炭素繊維は航空機・エネルギーで成長余地
もう一つ重要なのが炭素繊維です。
炭素繊維は鉄などと比較して軽く、強度が高いため、
・航空機
・自動車
・風力発電
・圧力容器
・スポーツ用品
など幅広い分野で使用されます。
特に航空機では、燃費向上のため機体を軽量化することが重要です。
航空需要が長期的に拡大すれば、航空機向け炭素繊維の需要拡大も期待できます。
東レは炭素繊維複合材料を主要事業の一つとしており、新しい中期経営計画でも事業成長を進めています。
繊維企業が持つ「軽くて強い素材を作る技術」は、今後のモビリティやエネルギー分野でも生かされると考えています。
医療分野でも繊維技術が使われる
繊維技術は医療分野とも相性があります。
例えば、
・人工腎臓用中空糸膜
・人工血管
・医療用繊維
・在宅医療機器
・再生医療関連材料
などです。
帝人は在宅医療を重要事業として持っているほか、2026〜2028年度の中期経営計画ではヘルスケア&ライフソリューションを成長ドライバーの一つと位置付けています。
今後高齢化が進むことを考えると、「服を作るための繊維」よりも、医療・健康を支える繊維や素材の方が成長余地は大きいと考えています。
防衛・航空宇宙も高機能繊維の市場になる
高機能繊維には、防衛関連という成長テーマもあります。
例えばアラミド繊維は、
・防弾素材
・防護服
・航空機
・自動車
・インフラ
などで使用されます。
帝人は中期経営計画で、アラミド繊維や炭素繊維などの高機能素材について、航空宇宙、防護、防衛、インフラなどへの展開を進める方針を示しています。
世界的に防衛関連支出が増える状況が続けば、高性能な特殊繊維にも中長期的な需要が生まれる可能性があります。
衣料品でも「ブランド」は成長できる
一方、衣料分野がすべて低迷するわけではありません。
国内の一般的な衣料市場そのものは成熟していますが、強いブランドを海外へ展開できる企業には成長余地があります。
代表的なのがゴールドウインです。
ゴールドウインは「THE NORTH FACE」などを展開する一方、自社のGoldwinブランドを世界市場へ広げています。
2026年にはソウル、ロンドン、ニューヨークなどでグローバル展開を進めており、Goldwinブランドについて2033年3月期に世界売上高500億円を目指しています。
つまり衣料分野では、
国内人口
↓
販売数量
だけを見るのではなく、
日本発ブランドを世界で売れるか
が重要になります。
環境対応も繊維業界の重要テーマ
繊維業界では大量生産・大量廃棄も社会問題になっています。
今後は、
・再生繊維
・植物由来原料
・リサイクル素材
・長寿命製品
・低環境負荷の製造工程
などへの転換がさらに求められるでしょう。
これは企業にとってコスト要因でもありますが、技術力の高い日本企業には差別化の機会にもなります。
単純に安い素材を作るのではなく、
高性能+環境性能
を組み合わせられる企業が有利になると考えています。
今後成長が期待できる分野
繊維製品業界の中で今後特に成長を期待したいのは、
・AI・半導体向け高機能材料
・半導体研磨材
・炭素繊維
・アラミド繊維
・航空宇宙材料
・防衛・防護材料
・医療用素材
・水処理膜
・環境対応素材
・海外展開できるスポーツ・アウトドアブランド
などです。
共通しているのは、単純な衣料用繊維ではないということです。
私は今後の繊維業界では、
高機能素材+成長産業+海外市場
を持つ会社を中心に見たいと考えています。
今後低迷が予想される分野
国内向けの汎用衣料
日本では人口減少が続くため、衣料品の販売数量そのものが長期的に大きく増えるとは考えにくいでしょう。
さらに低価格商品については海外メーカーとの競争もあります。
価格だけで勝負する衣料企業には厳しい環境が続くと考えています。
一般的な糸・生地
特殊機能のない汎用的な糸や生地についても、新興国メーカーとの価格競争になりやすい分野です。
原材料費、電力、人件費などが上昇する中で販売価格へ転嫁できなければ、利益率はさらに低下します。
国内市場だけに依存するアパレル
国内人口が減る以上、長期的な成長を狙うには海外展開が重要になります。
ブランド力が弱く、国内店舗数の増加だけに成長を依存する企業については、将来的な成長余地は限られると考えています。
今後有望な銘柄
① 東レ(3402)
繊維製品業界で本命として注目したいのが東レです。
東レを評価する理由は、すでに単純な繊維会社ではなく、世界的な高機能素材メーカーになっていることです。
成長分野には、
・炭素繊維
・半導体・電子材料
・AIデータセンター関連
・水処理
・高機能フィルム
・医療
などがあります。
2026年度からの「IGNITION 2028」ではAIデータセンター・AI半導体関連も強化し、今後3年間で4,000〜5,000億円の設備投資を計画しています。
2027年3月期第1四半期は全セグメントで増収増益となり、売上収益は前年同期比14.0%増、営業利益は72.1%増となりました。
2026年9月4日の終値は1,244.5円、予想PER20.14倍、PBR1.00倍、予想配当利回り2.09%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★☆☆
株主還元:★★★☆☆
総合投資判断:★★★★★
炭素繊維だけでなく、AI・半導体、水処理、医療まで成長テーマが多く、繊維製品セクターの中では最も長期成長をイメージしやすい企業だと考えています。
② 富士紡ホールディングス(3104)
2番目に注目したいのが富士紡ホールディングスです。
社名だけを見ると典型的な紡績会社に見えますが、現在では売上高の8割超が非繊維事業です。
最大の魅力は半導体関連です。
同社の研磨材はシリコンウエハーや半導体デバイスなどの超精密研磨工程で使用されています。
2026〜2030年度の中期経営計画「進化26-30」では、半導体市場の成長を背景に2030年度の売上高650億円、営業利益130億円を目標としています。
2027年3月期第1四半期も売上高17.0%増、営業利益28.2%増と好調で、会社側は通期予想も上方修正しています。
2026年9月4日の終値は3,330円、予想PER16.51倍、PBR2.14倍、予想配当利回り2.52%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★★
割安度:★★★☆☆
株主還元:★★★☆☆
総合投資判断:★★★★★
「繊維製品」という業種分類でありながら、実質的には半導体成長を取り込める企業です。
今後AI向け半導体市場が拡大するなら、繊維製品セクターの中でも株価成長を期待しやすい銘柄だと思います。
③ ゴールドウイン(8111)
衣料・アパレル系ではゴールドウインに注目します。
強みはブランド力です。
国内市場だけに依存せず、自社Goldwinブランドを海外へ展開しています。
2026年には韓国・ソウルで世界最大のGoldwin旗艦店を開設し、ロンドンやニューヨークなどでもグローバル展開を進めています。
2033年3月期にはGoldwinブランドだけで世界売上高500億円を目指しています。
ただし足元の業績には注意が必要です。
2027年3月期第1四半期は売上高が前年同期比98.8%、営業利益は17.9%まで減少しました。海外展開などに伴う先行投資に加え、インバウンド需要減少や天候なども影響しています。
一方、通期では売上高1,454億円、営業利益261億円と増収増益を会社側は予想しています。
2026年9月4日の終値は2,113円、予想PER11.29倍、PBR2.29倍、予想配当利回り3.31%です。
成長性:★★★★★
テーマ性:★★★★☆
収益力:★★★★★
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★☆
総合投資判断:★★★★☆
短期的には業績の弱さがありますが、日本発のプレミアムスポーツブランドとして海外展開に成功すれば、成長余地は大きいと考えています。
④ クラボウ(3106)
クラボウも「昔ながらの紡績会社」という印象だけで見ると実態を見誤りやすい企業です。
現在は繊維だけでなく、
・半導体関連
・高機能樹脂
・機能フィルム
・自動化・制御装置
・ライフサイエンス
などを成長分野としています。
中期経営計画「Accelerate’27」では、高収益事業への経営資源集中を進め、2027年度に売上高1,650億円、営業利益130億円、ROE10%を目標としています。
さらにDOE4%を目標とする配当政策に加え、中期計画3年間で200億円の自己株式取得を予定しています。
2027年3月期第1四半期は、半導体関連需要の拡大などによって売上高が前年同期比5.2%増、営業利益は32.1%増となりました。
2026年9月4日の終値は10,940円、予想PER11.76倍、PBR1.28倍、予想配当利回り3.03%です。
成長性:★★★★☆
テーマ性:★★★★★
収益力:★★★★☆
割安度:★★★★☆
株主還元:★★★★★
総合投資判断:★★★★☆
半導体関連の成長と株主還元の両方を期待できる点が魅力です。
一方、100株購入には100万円以上必要になるため、投資しやすさという点では今回の4社で最も低くなります。
まとめ
繊維製品業界は、昔ながらの「糸や衣料品を作る産業」として見ると、将来性はそれほど高くありません。
人口減少、低価格輸入品との競争、原材料費や人件費の上昇などを考えると、国内向けの汎用繊維や衣料市場が大きく成長する可能性は低いでしょう。
しかし現在の上場企業を見ると、繊維技術を起点として、
・AI・半導体
・炭素繊維
・航空宇宙
・防衛
・医療
・水処理
・環境対応素材
・海外ブランド
などへ事業を広げています。
そのため、繊維製品業界の将来性を5段階で評価するなら「3」です。
業界全体としては成熟していますが、高機能素材へ転換した企業だけを見ると「4」以上の成長性を持つ企業もあると考えています。
今後5〜10年は、従来型の繊維事業をどれだけ持っているかではなく、繊維技術から生まれた高機能材料を成長産業へ供給できるかによって企業間格差がさらに広がりそうです。
今回取り上げた4銘柄を、今後の成長性と株価上昇余地を重視して順位付けするなら、1位 東レ(3402)、2位 富士紡ホールディングス(3104)、3位 ゴールドウイン(8111)、4位 クラボウ(3106)と考えています。
本命は東レです。
炭素繊維だけではなく、AI・半導体、電子材料、水処理、医療など複数の長期成長テーマを持っています。
企業規模も大きく、一つの分野が低迷しても別の成長事業で補える点も強みです。
対抗は富士紡ホールディングスです。
繊維会社というイメージとは大きく異なり、現在では半導体向け研磨材が成長を牽引しています。
AIによる半導体需要拡大が続けば、今回の4社の中では東レ以上の利益成長率になる可能性もあります。
ゴールドウインは海外ブランド戦略が成功するかが最大のポイントです。短期業績には注意が必要ですが、Goldwinブランドを世界ブランドへ育てることができれば株価の成長余地も大きくなります。
クラボウは半導体関連の成長に加えて、DOE4%や自己株式取得など株主還元策が魅力です。
繊維製品業界は今後、「衣料を作る産業」から「高度な素材技術をAI・半導体・航空宇宙・医療などへ提供する産業」へ変わっていく企業ほど有望になると考えています。
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