株式を買うとき、PERやPBRを必ずチェックしていた時期が私にもありました。「割安かどうか」を見極めるための便利な指標として、どの証券口座の画面にも表示されている定番の数字です。でも最近は、それだけで判断するのは危ういなと感じることが増えてきました。数字は見えるものの、ごく一部しか映していないのだと考えるようになっています。
割安だからといって上がるとは限らない
PER10倍以下、PBR0.5倍と聞けば、割安感に惹かれます。私も以前はそうでした。ある小型株がPER8倍、PBR0.4倍で放置されているのを見て、「これはさすがに安すぎる」と思って飛びついたことがあります。しかし、半年経っても株価はほぼ横ばい。業績は黒字が続いているのに、株価はびくとも動きませんでした。
なぜこんなことが起きるのか。答えは「数字では見えない部分に市場の関心がないから」です。将来性への期待、話題性、資金流入のトレンド、そしてそもそも市場全体の注目度――そういったものがすっぽり抜け落ちているまま、PERやPBRだけを見て「安い」と判断していた自分に、今では反省しかありません。
「高すぎる」と思う株がさらに上がる現象
一方で、PERが50倍、PBRが10倍を超えている銘柄が何十%も上昇していく場面を何度も目にしています。例えば、成長ストーリーが注目されているテーマ株やIPO直後の銘柄です。数値上は完全に割高。にもかかわらず、買いが殺到してストップ高を繰り返す光景には、もはや「合理性」よりも「熱狂」が支配していると感じざるを得ません。
ここで学んだのは、「PERやPBRが高い=買ってはいけない」というのは短絡的だということです。むしろ、テーマ性や将来性の“物語”に投資家がどれだけ惹かれているかが、短中期では株価を大きく動かすのだと、経験を通じて理解してきました。
株価に影響を与える“見えない要因”
私は最近、株価を予想する際に以下のような“非数値的な要素”にも注目するようにしています。
- SNSでの話題性(特にXや掲示板)
- 経営陣のキャラクターや発信力
- 業界再編の動き、政策の風向き
- 業績以外のIR(事業提携、新規事業など)
- 値動きにクセのある銘柄のチャートパターン
これらはどれも、証券口座に表示される指標には含まれていません。しかし、明らかに株価に影響を及ぼしています。情報の“温度”や“流れ”を体感するには、数字ではなく、むしろ日々の相場の空気感や話題の変遷を追うことが重要だと考えるようになりました。
数字より“物語”を読むようになった
最近では、企業のIR資料を読むときにも、PLやBSよりも「なぜこの事業に進出するのか」「この発表はどの層の投資家に届くのか」といった視点を重視しています。つまり、“物語”を読む感覚です。
割安株投資も、グロース株投資も、最終的には「他の投資家がどう動くか」という読み合いに集約されます。その中で、数値だけでは伝わらない雰囲気や期待感が、想像以上に大きなウェイトを占めていると実感しています。
最後に:PERやPBRに頼りすぎない柔軟さを
もちろん、PERやPBRは無視して良いわけではありません。特に中長期のファンダメンタルズを重視するなら、ある程度の“バリュエーションの軸”は必要です。ただ、それがすべてだと思い込んでしまうのは危険だと、私は何度も痛感してきました。
投資の世界では、「正しい評価よりも、どう評価されるか」が先に株価に織り込まれます。見えない期待、過剰な失望、熱狂と疑念の入り混じる市場で、PERやPBRだけを信じるのは、コンパスだけで海を渡るようなものだと今では思っています。
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